持て余す

海街diaryの持て余すのネタバレレビュー・内容・結末

海街diary(2015年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

平穏な日常ってのはかけがえがない。

物語は3人姉妹の日常に変化が起こるところから始まる。縁遠くなっていた父親の死。葬儀への参列。腹違いの妹の存在。こうした新しいトピックスが登場する。

この父親──存在だけが語られるけど遺影すら映らなかった──が決して悪人ではないが、どうやらダメな人だったようで、かつては修羅場もあって出て行き、流れ流れて再々婚したうえ、闘病の末に亡くなったのだという。

この父親、あまりきちんとは語られないから印象は悪くない。みんな死んだ人のことをあまり悪く言わない(長女は溜まってたものがあったようだけど)からだと思うけれど、生前からそういう人だったのだろう。実際にそういう人間はいる。人に迷惑をかけるだけかけるけれど、さほど憎まれないタイプのクズ。迷惑をかけられた当事者でさえ、苦笑を浮かべながら許してしまう。魅力と能力が乖離しているタイプの人間。

挙句早死にして、総てから解放されてしまうなんて、いい人生だ。

そして、微妙な立場だった腹違いの妹が三姉妹の家に引き取られることになるのだが、描かれてはいないけれど役所の手続き的にはどうなっていたのだろう。きっと、それなりに面倒な書類上のなにがしがあったのだろうと推察されるし、役所というものの煩雑さを想像するだにご苦労な話だ。

さて、こうして三姉妹が四姉妹になったことで新しい日常が始まる。ここからが素晴らしい。それなりに嫌なことだったり悲しいことも起きるけれど、概ね平穏。どんな話なのか知らなかったので、平穏なシーンが続くとなにかひどい落とし穴があるのじゃないかと思って怖かったほどだ。

それこそ広瀬すずなので、「怒り」や「三度目の殺人」のようなことになってしまうのではないかと思って、気が気ではなかった。桜並木を自転車で疾走するシーンも花火を見終えて帰るシーンも、雨に降られて急いで帰宅するシーンもなんだか不安な気持ちになってしまったが、総ては杞憂。

この映画は平穏な日常が淡々と描かれるだけなので、他の姉妹にも事件は起こらない。クズの彼氏と別れたり、不倫の医者と別れたりはするものの、テレビや新聞のニュースになるようなことは起こらない。

なんて素晴らしいのだろう。

ドキドキするサスペンスは大好きなのだけれど、こうした日常を描くだけで画が保つというのは、四姉妹を演じる女優さんたちの魅力もあるし、監督のバランス感覚もあるのだと思う。心が洗われました。梅酒飲みたい!

そんな中で大竹しのぶの話の通じない感じが恐ろしくて素敵でした。
持て余す

持て余す