終わってみれば大満足。下手な邦題翻訳のせいでよくあるミュージカルものと危惧していたが中々に練られたヒューマンドラマであった。
この手のミュージックを介したヒューマンドラマはたいてい主人公が恵まれない環境にいて、そこから如何に這い上がるか、また成功に付随する今までの環境とのギャップによる苦悩という道程があるある。というかありふれすぎていて見飽きたほどだ。
今作がよかったのは題材としては例にもれずそんなありきたり作品になりがちなのにも関わらず、見せ方が新鮮でありそうはならなったところである。
メインの二人が出会うきっかけとなる冒頭のバーでのパフォーマンスのシーン。正直、初見ではそこまでいい歌じゃなくねえか…?と不安になった。
そこからプロデューサー側のバックグラウンドを掘り下げ、その後シンガー側のそれも掘り下げる。
そして、再び冒頭のシーンに戻る。するとどうだろう。なんの感動も起きなかった平凡な歌がもう他人事ではない、シンガーとプロデューサー俺自身のはじまりのうたになっているではないか。
すごい。音楽がいかに表現者のバックグランドと結びついているかがよくわかる。なんの変哲もない普通の歌を、たった1時間足らずで特別なものにしてしまうのだから。
それに加えて特によかったのがラストシーン。
浮気した元カレシンガーが大活躍。都合よくヨリを戻そうとする元カレ。ライブを見に行く主人公。
ここのシーン、セリフがなくライブの歌を聴いている主人公の表情が終始映されている。その表情が切なそうな表情から徐々に決意の表情に変わっていく。
ろくでもない浮気男とよりを戻したところでうまくはいかない。戻る気もない。それがわかってても未練がぬぐえない。そんなやつの歌でも心が動かされている主人公。結局決意を決め、ライブ中に会場と飛び出し。プロデューサーのもとへ向かい自分の道を行くことにしたのだった。
この主人公の表情管理と、はたから見れば何も始まっていなくとも、確実に上向きを始めたその人生で幕引きなのが本当によかった。とてもいいラスト。
期待してなかった分大満足です。