くりふ

バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)のくりふのレビュー・感想・評価

4.0
【愛され下手は空へと逃げる】

8割ほどはすごく面白かった。役者への生々しい踏み込み方が撮影手法に合致し引き込まれる。が、物語の着地は曖昧。

かつて空を謳歌したバードマン役は欺瞞だと捨て、地(舞台)に足をつけ「死と再生」を願う男。が、社会的成功と愛し愛されることのバランスが取れずに…というお話だと捉えましたが結局、飛んだままどっか行っちゃった。

劇中劇の原作となったカーヴァ―の「ビギナーズ」は読んでいました。これ小説としてはとても面白かったのですが、イニャリトゥ監督が言う通り「舞台化する作品としてひどい選択肢」で、実際大仰なソープオペラに脚色され余韻もへったくれもありません。失敗が約束されたようなものですがラスト、あの批評家はどんな意図で論じたんだろう?まるで説得力ないから、主人公リーガンの願望かなーと思った。

オルターエゴとしてバードマンの声が出てくるのはまだわかるけど、リーガンって超能力使った気でいたり、妄想したりもするから、終盤に向けどこまでが現実かが曖昧になる。

娘を使った締め方も、彼女が元ジャンキーでリハビリ中、てのが多分引っかけ。親子でソッチかい(笑)。

でもソレって、その前に逃避行動として描いているから全く共感できない。

あらゆる場所でつかず離れず、役者をなめるように迫るカメラがすごくよくて、途切れぬ時間はまさに映画の醍醐味。段々リーガンの皺が目立つ撮り方なども見事だけれど、そのリアルに水を差す幻想性が最後に来て作品にひびを入れちゃった、というのが初見での所感です。

色々なものが詰まった映画なので、再見したらまた受けるものも変わると思う。特に「ビギナーズ」と比較すると、愛され下手リーガンが原作に選んだ理由や、本作との影響関係をもっと楽しめそうです。

個々の役者さんは、立体的な臨場感がすごくよかった。この撮影方法はそれをより引き出したと思う。ベテランに囲まれる中、エマ・ストーンのヒステリックな若い鋭さが光っていました。

<2015.5.3記>
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