HOSHI

バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)のHOSHIのネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

角川シネマ新宿にて鑑賞。アカデミー賞作品賞受賞直後に観たので満員御礼の状態でした。

鑑賞直後、スゴイ映画を観てしまったと久しぶりに震えました。ときどきこうした映画でしか成立しない映画に出会うと、これだから映画はやめられないと思う次第です。これが本当にあの "BABEL" を撮った監督なの? と信じられない程です。いや、今でも半信半疑ですが心から脱帽です。

主演の Michael KEATON 氏の怪演は映画好きなら見逃せないものだと思います。子どもの頃に Michael KEATON 氏が演じる BATMAN シリィズで映画と BATMAN を愛するようになった僕としては、どんぴしゃな作品でした。

とにかく映画の冒頭からぐいぐいと画面の中の世界に引きずり込まれていく演出は圧巻です。
カットを連続させることで擬似的なワンカットに見せる映像に、丁寧で細部まで行き届いた演出、そして時折あるハプニングであろう部分も演出として "生き" にしてしまう力が、本作にはあります。いつ息をしていいのかわからずに頭がくらくらしました。

また音楽が最高でした。Antonio SÁNCHEZ 氏のドラムが全編で効果的な演出として映画の進行をスリリングなものにしていきます。すぐにサウンドトラックを買ったのは書くまでもありません。ドラムソロだけで、これだけ聴かせるのかと。

鑑賞直後に他の観客が何人も "よくわからない映画だった。結局、何だったの?" という感想を口にしていたのは、わからないでもない。
映画のメタ的な構造に気づかずに物語だけを追おうとすると、途端にリアリティラインの崩壊した難解な映画になると思います。

本作は、俳優、演出、物語がそれぞれ補完し合うようなメタ的な構造を持っています。

たとえば、主演の Michael KEATON 氏と主人公の Riggan はかつて仮面のヒーロー映画の主役で一世を風靡したにも関わらず、最近のキャリアに恵まれずに起死回生の作品にかける、という点で現実と物語の境界が曖昧になるように作られています。明らかに BATMAN と BIRDMAN の外観を似せているのも意図的ですよね (先に挙げた Michael KEATON 氏主演の BATMAN ですよ。念のため)。

他にも映画と演劇という異なる芸術の狭間で自分を失っていく Riggan の姿と、まるで演劇を観ているかのようなカットを切らない演出によって観客は映画が進むにつれ、映画を観ている感覚を失っていくなどです (他にも役者と批評家、男と父親、現在と過去、批評と SNS などなど)。

そうしたメタ的な構造の演出を挙げればキリがないですが、間違いなく緻密な計算の上に成り立っている稀有な映画だと思います。そして、それこそが本作の魅力だと思います。

2015 年の映画を語る上で外せない作品です。劇場で観ないと損をする作品だと思います。難しいとか言わないで、是非とも観て欲しい作品です。
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