映画漬廃人伊波興一

火星の女 /夢野久作の少女地獄の映画漬廃人伊波興一のレビュー・感想・評価

4.0
いかなる情欲の煩悩も跳ね返すような艶やかな黒髪の魅力
小沼勝『夢野久作の少女地獄』

数年前『火星の女』と原作のエピソードタイトルがパッケージに冠されDVDリリースされた時、それまで埋没されていたと思っていた本作に時代がようやく追いついてきた気がして嬉しくなりました。

全力疾走を終えたような飛鳥裕子と小川亜佐美のふたりが互いの距離を縮めれば縮めるほど、刻一刻と凄まじい勢いで成熟に向かっていく未熟性が際立ちます。

緊密な連絡を取り合って通謀する汗と肌を目にすれば、その裏面には間違いなくこの二人の間に伏在する、近い将来、もしくは今すぐの情欲の企てが読み取れます。

そして何より白い肌に浮かび上がらせる網状の血管模様が画面全体を彩っているかのよう。

ふたりの少女の存在そのものが即興の音色のように周囲の大人たちを煽情的にかき乱しますが、全ては降り注ぐ陽光の大半を吸収したような艶やかな黒髪によって跳ね返されます。

いくら卑猥な大人たちが常識世界の基盤をなす是々非々主義を打ち消そうとしても、両性合意に基づく交接なら、どんな関係も許す。いらぬ止め立てはするな、と身勝手に叫ぼうと
(さよなら地球の皆さん)
という異様な、かつ澄んだ声が観ている私たちの煩悩の旋律までをもバッサリ断ち切る。

規制やコンプライアンスという言葉が記号的にも偽善的にも罷り通る割にはSNSあたりでいとも簡単に無修正動画や画像などが閲覧出来るという、どこか節操に欠けた現代から40年前のこの傑作を観れば文字通り(火星の女)というしかない、異惑星のエロチシズムが横溢しております。