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マイ・インターンのmarohideのレビュー・感想・評価

マイ・インターン(2015年製作の映画)
3.5
 ヒューマンドラマにありがちな不愉快な描写がなく心穏やかに観ることが出来た。また、フェミニズム的観点からみても男女共に受け入れやすい優作なのではないかと思う。

 紳士的で思慮深く社交的で洗練された男性としてのベンは、現代社会における理想の男性像の一つの具体的な模範解答だ。それがスマートに物語に落とし込まれているので嫌味がない。誰だってなれるならベンになりたいだろう。

 マッサージ師との間で起こった軽い性的描写は唐突であり、嫌な感じはしなかったが自分はこの映画の中で唯一違和感を感じた。
 しかし考えて見れば、もしこのシーンがなければ男性という性の抱える問題からの脱却方法が加齢による性機能の低下しかないというあんまりな結論にも取られかねないので必要だったのだろう。違和感はあったけど。

 とはいえ、実際ベンの年齢が他の登場人物よりかなり高いという点は大きいと思わざるを得ない。
 ジュールズのホテルの部屋にベンが招かれ献身的に話を聴くシーンは良かったし、あらゆる男女の間でそのような関係性が成立するのは理想だ。理想だが、やはりあれが出来るのはベンが年を取っているからだよなと感じてしまう。もしもあの場面でベンが若かったら招く側も、また招かれる側もハードルが高かろう。
 この映画の居心地の良さ自体が、ベンと他の主要人物との間に性や恋愛が存在しえないという点に担保されているところが大きいしなぁ。難しい。

 そもそもこの映画のテーマが多面的であり、その中でも若者と高齢者の関係性は中心的なテーマなので映画として全然間違ってはいないのだが、自分のような若年層の男性に位置する視聴者としては、では自分は現時点でどのようにしてベンに近づけるのかと、そんなことばかり考えてしまった。

 最終的に浮気という過ちを犯してしまうジュールズの夫の「僕も最初は理想の夫になれると思った」という台詞は、きっと本心なのだろう。事実、自身のキャリアを捨て専業主夫になるという姿勢も近年の新しい男性像と合致するし、子供視点で見ればかなり理想的な父親なのだろうと感じさせる描写も多い。
 私自身、出来れば理想的な男性像に近づきたい、そして気をつけていればそうなれるのではないかという思いがあるので、この台詞に共感できる。
 だからこそそんな人物が結局ひどい失敗するという展開はかなり身につまされる思いがした。厳しいが、いかにもありそうなことだ。

 色々考えさせられたが、全体的には幸福感の強い映画だった。クラシックスタイルが推されているのも個人的には非常に嬉しい点。やっぱりクラシックですよ。
 若かった頃のベンはどんな人物だったのだろう。考えずにはいられない。
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