きえ

ザ・ウォークのきえのレビュー・感想・評価

ザ・ウォーク(2015年製作の映画)
3.9
今年の劇場鑑賞をプレイバック
2016/01/25

今年初の”IMAX 3D”鑑賞作品。

史上最も悲惨なテロの被害に遭ったワールドトレードセンターで、史上最も美しい犯罪と言われたゲリラ綱渡りを行ったフランスの大道芸人フィリップ・プティと、彼の挑戦を支えた仲間達を描いた人間ドラマ。

見所はやはり後半のゲリラ綱渡りに尽きる。3Dで下から上へ、上から下へと広がる地上411㍍の世界は立体映像を超越しリアルに足がすくむ感覚だった(高所恐怖症)。映像技術の進歩に圧倒され、同時に感涙。何故なら今は無きワールドトレードセンターが一寸違わずそこにあったから。全くのリアルそのものの姿に9.11で崩れゆく映像が自然と浮かび感慨深くスクリーンを見つめた。

人間ドラマに徹した前半は少し退屈に感じられたけど、後半からガラっと空気が変わり面白かった。綱渡りのシーンは勿論だし、これに関しては観て下さいと言うしかないけど、限られた時間でワイヤーを張ると言う不可能に近い作業をやり遂げるまでのスリリングさも見応えありだった。市民にはゲリラ行為と見せかけて実は6年を費やし緻密な準備をしていた仲間達の情熱を含めて観て欲しい。

こうした作品は映像に注目しがちだけど、映像技術がどんなに進歩しようと演じる役者が巧くなければ全て台無し。主演のジョゼフ・ゴードン=レヴィットの演技が光ってた!彼の表情や動きに心拍数は上がったり下がったりさせられ、臨場感を生むのは最後は人なのだと改めて感じた。

実在の人物の作品にはいつも学びがある。プティも然り。ワールドトレードセンターの屋上に向かうエレベーターでの移動を”天国への旅”と称した彼の死生感は、情熱の中で迎える死は喜びであるとしている。生と死が常に同時に存在する彼の生き様は一見理解出来ないようでいて、よくよく考えると死をも恐れない情熱に出会える事は幸せなのだろうと思う。少なくともプティは…。ただどんな情熱も自分1人で叶えるには限界があるのも事実かもしれない。良き理解者を得る事…これはどんな分野のどんなチャレンジに於いても共通する鉄板だと思った。

この作品を観終わると、今度は『MAN ON WIRE』が観たくなる。フィリップ・プティの"あの日" を記録したドキュメンタリー映画。死の恐怖を超越すると本物の絶頂を味わえるのだろうか…
きえ

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