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ニュースの真相のodyssのレビュー・感想・評価

ニュースの真相(2016年製作の映画)
4.0
【ジャーナリズムの敗北を描いた佳作】

この映画と同年に公開された『スポットライト』は、カトリック教会のセクハラという実在の事件に斬り込んだジャーナリズムの勝利を描いた秀作だった。

この『ニュースの真相』もジャーナリズムが挑んだ実在の事件を描いた映画の佳作。ただし、ここではジャーナリズムは敗北している。

2004年のアメリカ。CBSのニュース番組が、当時再選をかけて選挙戦を戦っていたブッシュ(息子)大統領に関するスキャンダルを報じた。ブッシュは1970年代の空軍軍人時代に、策を弄して軍人としての職務を逃れたというのだ。

アメリカの大統領にとって、軍務は経歴の上できわめて重要である。アイゼンハワー大統領が第二次世界大戦を戦った将軍であったこと、ケネディ大統領も海軍軍人として第二次大戦中に日本軍と戦闘を行った経歴の主だったことは、いずれも大統領に当選するに際して大きなプラスとなった。みずから戦争で勇敢に戦った人間でなければ大国アメリカを率いるのにふさわしい人物とは見なされないのである。

だから、ブッシュが兵役逃れをしたというニュースが本当なら、ブッシュにとっては政治家としての生命を断たれたも同然になる。

このニュースの元ネタが発掘された経緯や、それをCBSの女性プロデューサーが本物と確信するまでの色々、そしてニュースのアンカーマンがそのニュースを採用するにいたる過程が、詳細に映像化されている。

しかし、やがてこのニュースはガセではないかという声が強くなる。CBS上層部は事態を重視し、プロデューサーとアンカーマンの責任を問い・・・

真相は結局分からないままなのだが、最終的には報じた側は職を辞することになり、マスコミの敗北で終わる。

この映画は基本的に女性プロデューサーやアンカーマンに同情的な視点で作られているが、それでもなお問題とされた報道が正しかったかどうかにはかなり疑問が残る。結局、真実を明らかにするためには膨大な労力と財力が必要なのであり、現代の放送局にそれだけの力があるのか・・・というところに問題は帰着する。

第四の権力と呼ばれるマスコミは、真実を市民の前に明らかにしていく義務があるが、誤報があれば当事者に多大な被害が及ぶ。特にこのケースでは大統領選が絡んでいるだけに、相当な慎重さが要求される。神ではなく人間である以上、100%の確証というのは不可能だが、この映画は実在の事件を取り上げて、マスコミ報道の限界や困難さを描いているという点で佳作になり得ている。
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