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夜の片鱗のakrutmのレビュー・感想・評価

夜の片鱗(1964年製作の映画)
4.3
娼婦として夜の街に立つ女性と彼女のヒモであるヤクザ男性の腐れ縁とも言える別れ難き関係を、ネオンカラーによる鮮やかな色彩の映像で描いた、中村登監督のドラマ映画。原作は、太田経子が小説中央公論に書いた小説(同名かどうかは不明)。

多くの文芸作品を手掛け、『古都』と『智恵子抄』で2度のアカデミー外国語映画賞にノミネートされるなど、もともと国際的評価の高かった中村登監督であるが、生誕100年を記念してヴェネチア国際映画祭クラシック部門で上映(他には、小津安二郎監督の『彼岸花』や大島渚監督の『戦場のメリークリスマス』も上映)されたことで、中村登監督の国際的な再評価のきっかけとなった作品。

ストーリー的には、女工の傍らバーで手伝いをしていた若い女性・芳江が、そこで知り合って恋したヤクザの男性・英次に騙されて娼婦まで堕ちていくという大枠は、ごくありふれたものである。でも、本映画の価値はそこにはなく、娼婦を演じた桑野みゆきの素晴らしい演技に尽きる。娼婦になる前の純真無垢な19歳の女性と、娼婦になった後のヤクザと縁を切れないままに惰性で生きている女性を、見事に演じ分けていて、同じ女優が演じているように見えないほどである。『青春残酷物語』でのどうしようもない男性に惹かれて破滅していく女性も良かったが、映画そのものの衝撃が大きかったせいか、桑野みゆきの演技が取り立てて印象に残ったわけではない。それに対して、本作では彼女の演技そのものが映画の良さになっている。

とは言いながらも、ストーリー的も工夫されている。ある出来事をきっかけに、それまで典型的なヒモであった英次が甲斐甲斐しく(というか、卑屈なほどに)芳江に尽くすようになる。この関係性の変化に加えて、客として相手をしていた真面目な男性からデートに誘われるようになることで、彼女の内面に複雑な葛藤が生じる。これが映画で描く世界を非常に豊かにしていて、その豊かさに十分に見合う演技を桑野みゆきが見せているのである。とにかく、彼女の演技が光りまくる作品である。

個人的には、佐久間良子との離婚騒動などのもっと年配のころしか印象に残っていない平幹二朗の演技もなかなか良かった。ヤクザであることを隠しているときのリーマン風の雰囲気と本性をあらわにしたあとの演じ分けも、桑野みゆきに負けず劣らず見事である。
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