Imperi

4分間のピアニストのImperiのレビュー・感想・評価

4分間のピアニスト(2006年製作の映画)
3.9
ジェニーの凶暴性はどこからくるのかということばかり考えていた。軽く触れただけでも壊れそうな傷だらけの心。それを防御するための棘なのか。裏切りに対する過度の恐怖。信用することへの恐怖。他人を、自分を認める恐怖。それが自分以外を全て敵としたのか。ジェニーを演じたハンナー・ヘルツシュプルングの、狼のような眼光に引きこまれた。

マダム・クリューゲルは音楽だけを愛し、彼女の才能を愛した。彼女のその他の事へは決して踏み込むことなど無かった。マダムも決して聖人ではない。ジェニーの才能に触れて、それを開花させたかった。かつて彼女が愛した人への無念と贖罪の念がそうさせただけなのか。しかしそれがジェニーにはかえって心地よかったのかもしれない。

最後の演奏が圧巻。マダムの求める自分や、他の何者が求めてきた自分ではない、自分が認める自分がここにいると表明する演奏。非常に彼女らしい魂をピアノにぶつけるような、心の叫びの様にも聞こえる音。ピアノと自分の体とその全てで奏でるそれは、他の何人も冒せざる彼女の”音楽”だ。マダムはうろたえ酒をあおるも、彼女の見せた答えに複雑ながらも笑みを贈る。ジェニーはマダムのいう「低俗な音楽」に「正式なお辞儀」を添えた。二人が本当に通じ合った瞬間だと思う。

ジェニーの人格そのままに、この映画自体が、観ている我々に「お前らの思い描く通りにはさせない」って感じがして、なんだか逆に良かった。
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