カフカさん

雨の日は会えない、晴れた日は君を想うのカフカさんのネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

「心の修理は車の修理と同じ。まず隅々まで点検する。そして組み立て直す」(デイヴィスの義理の父のフィル)

原題は“Demolition”=「破壊、解体」

邦題は、劇中に登場する“If it's rainy, you won't see me. If it's sunny, you'll think of me.” という言葉より。


【あらすじ】
義父の会社に勤める銀行員ディヴィス(ジェイク・ギレンホール)。ある日、交通事故で妻のジュリアを失う。彼は悲しみを全く感じず、涙も出なかった。そして妻を愛してなかったと考え始め、感覚や感情を失っていることに気付く。

義父の言葉通りに物を解体をする中で、自販機に関する苦情を訴えたカスタマーサービスのカレンやその息子のクリスとの交流を通して、デイヴィスは変化していく。


【長い感想】
個人的には好きな世界観や雰囲気だった。
物語の核心や「なぜ?」と感じる部分への答えがぼかされてる映画で、ものすごく解釈の余地が残されている。

また小説を読んでるような感覚にもさせてくれる映画だという印象を持った。
抽象的で、分かりやすいハッピーエンドではない。主人公が言ったように「象徴」という言葉が映画のキーワードなんだろう。

逆に抽象的な描写やモヤモヤとした描き方に関しては、苦手な方もいるように感じた。


デイヴィスは病院で買ったお菓子が詰まってしまった際、自販機会社のカスタマーサービス宛にクレームの手紙を書いた。その際に妻や仕事などについても書いたり、それを何通も出すところが面白かった。
ショックを受けていたり、自分でも考えがまとまらない時、誰かに話を聞いてもらいたいという感覚にはとても共感した。
結果的にカレンやクリスと出会うことができて、人との出会いの面白さを感じた。

また、デイヴィスが妻の死に涙を流さなかったり、悲しみを感じないと言ってたけど、何となく分かる気もした。
本当に悲しかったら涙が出るのは当然かもしれないけど、気持ちの整理がつかなくて悲しくなかったり、涙が出ないのもまた真実だと思った。喪失感の大きさゆえに、現実を受け入れたくないみたいな感覚と言うべきか。
と同時に、無神経なデイヴィス(これはしょうがないけども)に対する娘を失った義父の怒りも分かる気はした。

序盤まで見た時点では、デイヴィスが妻のことを愛しておらず、彼を嫌う義父と決別して、カレンと関係を持ち一緒になる、みたいな展開だと思っていた。あるいは、デイヴィスが何か事件を起こすのではないか、と勘繰った。
だけど、デイヴィスは妻のことを愛していなかったわけではない…カレンやクリスは彼を再生させる…デイヴィスは義理の父親と和解する…といった具合にいい意味で裏切られた。
「ジュリアは海が好きだった」と切なそうに言ったり、ジュリアの幻想やデイヴィスがジュリアと触れ合うシーンが出てき始めてからは、デイヴィスが何か大きな苦しみを抱えているんだろうな、と思い始めた。

主人公が冷蔵庫、トイレの個室、パソコン、そして夫婦の家などを解体していくが、それが夫婦生活を再考していくことと軌を一にしているのも面白かった。
男性が好きかもしれないと気付き始めるクリスが、デイヴィスに懐くのも印象的だった。
クリスがデイヴィスの家の解体を手伝ったり、デイヴィスの顔を引っ張って笑顔にさせるシーンも好きだった。
デイヴィスも、そしてクリスも何かが変わっていったんだろう。

正直に言えばデイヴィスは解体しかしてなくて、どこからが「再生」だったり、「修復」なのかが分かりづらい気はした。
妻のお墓参りに行った時に出会った交通事故の相手(デイヴィスが浮気相手だと勘違いしたマイケル)に、「(妻には大切にされる価値があるから)妻の愛に応えてくれたことを願う」と言った時、妻のメモを発見した時、そして倉庫に眠っていたメリーゴーランドを修復した辺りが「再生」 なんだろう。
ともかく、気持ちが「晴れた」ことによって、デイヴィスがジュリアと彼女の死に真っ正面から向き合えたんだろうな…。

と思った直後に、デイヴィスがクリスの指定した場所に行くと、またまた建物が破壊されるシーン 笑 そして、子供たちと走るデイヴィス。

また、家を解体する中で、妻のエコー写真を発見するシーンも演出として好きだった。ある意味衝撃的だった。


妻の死に無感覚な主人公が再生していくのを、コミカルに描いているのもこの映画の特徴かもしれない。
例えば、デイヴィスが解体業者にお金を払ってまで解体をさせてほしいと頼み込む場面は笑った。
デイヴィスがクリスに拳銃の撃ち方を教えるが、デイヴィスが防弾チョッキを着てたとしても撃たれるシーンはヒヤヒヤした。だけど、この痛みも足に釘が刺さった時の痛みも「生」ってものの象徴なのかもなぁと。
ノリノリでクリスに教えてもらった音楽を聴きながら街を歩き、人混みの中でジャンプまでするデイヴィスもよかった 笑
その他にもブルドーザーを購入してまで家を破壊したり…と、おもしろおかしく描いている部分もある。

交通事故に合う前に、またクリスが病院に運び込まれる時に流れるショパンの『夜想曲(ノクターン)』も、それぞれのシーンと相まって、とても印象に残っている。冒頭でこの曲が流れて引き込まれたのもある。

ちなみに100分ほどの映画だけど、デイヴィスの妻への愛、カレンやクリスとの交流、そして終盤の新事実(妻の妊娠、デイヴィスの跡をつけていた人物の正体=交通事故の相手)などが盛り込まれていて、結構盛り沢山な内容。

カスタマーサービスのカレンに宛てた手紙に「すべてが象徴になった」という言葉があったけど、この映画で描かれてる1つ1つのシーンが何かの「象徴」なのだろう。
マイマイガがデイヴィスの心臓を食べたシーン(あくまで主人公の想像)、かけっこで巻き戻しされいつまでもフェンスから出られない回想、クリスが暴行された理由やその意味、そして妻の妊娠とメリーゴーランドのシーンなど…消化し切れなかった部分もあった。
破壊したはずの家が元通り?になってそこで生活してるのもなぜなのか、ということについても疑問に感じた。
だから2回目以降見直すと、新しい発見がさらにありそうだと感じる映画だった。

総じて、主人公が再生していく物語にしてはストレートに進まず、展開が分かりにくいけど、それがむしろこの映画の魅力だと感じた。また独自の雰囲気や余韻があり楽しめた。


ちなみにジェイク・ギレンホールさん、今回もかっこよかった。はっちゃけた彼も見られる。
そして、彼があらゆるものを解体するシーンは『ナイトクローラー』での演技を思い出させた。
カフカさん

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