ユウサク

あやつり糸の世界のユウサクのレビュー・感想・評価

あやつり糸の世界(1973年製作の映画)
4.1
配信になさそうだったのでBlu-rayで。面白かった。クィア要素は薄めだけど、活劇として見応えあって、撮影も音楽も非常に鋭利。オシレーション!って感じの剥き出しシンセが耳にギャンギャン響く。

初めてシミュラクロンに入ってトラックの運転手になってるシーンの特殊効果とかシュティラーがエヴァの家で項垂れるカットの異様なトランジションとか、視覚的な挑戦が楽しい。鏡置きまくりでどれが実像だかわからないのも話の筋と呼応している。大仰なアップも効果的だし、前後のフォーカス移動が巧みで、同一カット内で全く違う印象を与えてくる。
あと全体的に球を意識した撮影が行われてると思う。記者会見的なのしてるシーンの見下ろし気味に始まってだんだん左に動きつつ下がっていってテーブルの辺りまで行くところとか。エヴァを車から降ろして別荘に入っていくワンカットも凄い。どんなレール引いてんの?ってなる。フェンスぴょんぴょん飛び越えたシュティラーの手前に車が右から入ってくるとことかはわかりやすくギョッとできる。てか何気にアクションも凄くてシュティラー役のクラウス・レービッチェはそんなに体格良くも見えないけどどんな高いところでもぴょんぴょん飛び越えるし別荘から飛び出す時の飛び込み姿勢もめっちゃ綺麗。この頃の役者はこれくらいできるのがデフォなのか?

バーだかクラブだかのシーンで2階で白人が飲んでて1階でアフリカンの人たちが裸で踊ってたり、リリー・マルレーンの舞台やってる店(ファスビンダーはこのリリー・マルレーンでも1本撮ってるんですね)のキッチンでも裸で働いてるアフリカンがいてホールスタッフは白塗りとか、たぶんこの世の人種差別の縮図としてやってんのかなと思った。グロリアの家に乗り込んでくる追手も白塗りで妙な金髪をしてるし、終盤のホテルのダンスホールでもみんな白塗り。ただそういう世界の批判のためにアフリカンの身体をフェティッシュに描くのは本末転倒な気もするけど。

若干チープにも見える「ハッピーエンド」側のラストと寒々しい「バッドエンド」側のラストの対比は素っ気なくて好き。前編も後編も終わり方にキレあり。前後編のエンドクレジットで流れるフリートウッド・マックの曲もカラッとした絶望感がある。ただ結局オッサンの妄想映画の範疇に収まってる感も否めない。
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