キャッチ30

キャロルのキャッチ30のレビュー・感想・評価

キャロル(2015年製作の映画)
4.2
 異性愛よりも同性愛の方が胸が張り裂けそうになるのか。『キャロル』を観た後、そんな感想が思い浮かんだ。男性同士の恋愛はよく見受けられるが、女性同士は少ない。女性の場合、連帯感が強いというのは穿った見方だろうか。

 時代は1952年、クリスマスシーズンのニューヨーク。アイゼンハワーが次期大統領に決まり、赤狩りが行われ、同性愛が不寛容だった時代。
 写真家になることを夢見ているテレーズはデパートで働いている。テレーズは控えめな性格で恋人であるリチャードとの結婚に踏み切れずにいる。そんなある日、彼女の前に娘へのクリスマスプレゼントを探すキャロルという女性が現れる。優雅で気品があり、何処か謎めいた雰囲気を漂わせるキャロルにテレーズは心を奪われていく。ショーウィンドウに置き忘れた手袋を届けたことをきっかけにキャロルとテレーズの交流が始まる。

 キャロルの家に招かれたテレーズはキャロルが娘の親権問題を巡って夫であるハージと離婚訴訟中であることを知る。玩具売り場にあった鉄道セットは自由になれないキャロルの象徴かもしれない。やがて、キャロルはテレーズを旅に誘う。二人だけの逃避行。当然、心と身体の距離は縮む。抑圧されていたものが解放され、幸福な時を過ごす彼女たちだったが、現実は二人を放ってはくれなかった……。

 監督のトッド・ヘインズは抑制された状況下で愛の物語を紡ぐ。サンディ・パウエルによる衣装やエドワード・ラックマンの撮影も目を惹くが、主演二人が素晴らしい。強いていうならキャロルと出会うことで成長していくルーニ・マーラを私は推す。電話を切られた直後、「あなたに会いたい」と呟く姿は記憶に残る。