マリオン

キングスマンのマリオンのネタバレレビュー・内容・結末

キングスマン(2015年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

荒唐無稽で愉快なスパイ映画へのオマージュとイギリス魂溢れる気品と皮肉が随所に散りばめられ、マシュー・ヴォーンとマーク・ミラーらしい痛快さが観客を興奮の渦へ巻き込んでいく。これはマシュー・ヴォーン流のスパイ映画へのラブレターなのだ。

まず素晴らしいのがかつての007シリーズのような荒唐無稽で壮大な英国式スパイ映画をなぞるかのような設定やオマージュが散りばめられている所だ。オーダーメイドで作られた上質なスーツを身にまとい、知的な言い回しをしながら英国紳士らしい気品さと男らしさを振りまきながら華麗に敵をなぎ倒すキングスマンのエージェントはジェームズ・ボンドを連想させる。またライター型手榴弾や毒入りペン、毒の刃が仕込まれた靴に傘型のシールド付き銃などの秘密道具など往年のスパイ映画らしいガジェットも登場する。そんなキングスマンの秘密基地は格式高いテーラーに巧妙に隠され、スパイガジェットも英国らしいシックな作りの部屋に綺麗に整理整頓されて置かれている。こういうイギリスらしさ全開なスパイ映画が大好きな自分にとってこういう一つ一つのこだわりがたまらなく愛おしい。他にも主人公に与えられた犬につけたJBという名前の由来を聞く場面やマティーニを頼むくだりなど知っているとニヤリとできる要素や小ネタもあって実に楽しい。

また敵の設定もかつての007シリーズに登場した頭のネジがぶっ飛んだ悪役を彷彿とさせる。今作のヴィランは環境汚染を止める為に選ばれた人間だけ残してあとは全部抹殺してしまえばいいという狂った考え方を持つアメリカ人IT企業家兼エコロジストだ。まるでスティーブ・ジョブズを連想させるカリスマぶりを発揮しながらも、その風貌はファンキーなラッパーというのも現代的でありながら相反するものが混ざり合うカオスさが斬新だ。そんな彼の相棒は足が義足兼ブレードになっている女殺し屋というのも荒唐無稽と大味のスレスレを攻める往年のスパイ映画のツボを見事につくポイントだ。

英国スパイ映画に対するこだわりはマシュー・ヴォーンの意向が色濃く反映されている。「今のシリアスなスパイ映画は苦手だ、昔ながらの現実離れしたスパイ映画が好きだ」と登場人物に言わせているように、リアルさが重視されてどんどんシリアスになってしまったスパイ映画に対する嘆きが込められている。そして今作が見事なまでに痛快で荒唐無稽であり続けることによってシリアスなスパイ映画へのカウンターパンチになっている。

またマーク・ミラーらしいストーリーも今までのスパイ映画にはない新しい風を吹かせている。根は真面目だがチンピラみたいな事ばかりしている労働者階級の青年が、貴族階級ばかりな秘密のスパイ組織にリクルートされる。主人公のメンターとなるスパイが「マナーが紳士を作る」と言うように真の英国紳士は生まれながらの階級なんて関係ない、自分の意志によって切り開くものだというテーマが見る者の心を掴む。もちろんイギリスに根強くある階級社会へのカウンターパンチでもある。伝統を受け継ぎ、文字通り一流の英国紳士スパイとなった青年の活躍ぶりはとてもかっこよく、最後にはメンターの動きや振る舞いをなぞるようにチンピラをなぎ倒す場面が描かれ、意志が受け継がれたこと示す。なんともニクいではないか。

そしてマシュー・ヴォーンらしい痛快さが荒唐無稽さと皮肉を加速させる。特に後半の展開はもうどう言葉にしていいのか分からないほどぶっ飛んでいる。エロやギャグもどんどん盛り込み、各方面に対して悪意に満ちたブラックなネタを平然とかます。例えばアメリカ南部白人のキリスト教原理主義の集会で喧嘩を吹っ掛けて、レーナード・スキナードの「Free Bird」にのせて皆殺しにする場面や、選民主義によって選ばれた為政者や億万長者たちがエルガー作曲の「威風堂々」に乗せて盛大に頭を花火のように爆発させる場面、任務を完了したエグジーのご褒美がスウェーデン王女とのアナルセックスというオチなどのあまりのやりたい放題ぶりにはもう開いた口がふさがらないどころか大笑いである。

またセンスのある軽快な音楽にのせて敵を容赦なく叩き潰す様も痛快である。教会のアクションシーンは画面の中央でほぼワンカットのようにシームレスに展開され、カオスな状況ながらアクションはとても見やすい。エグジーとガゼルのバトルではアクロバティックな動きを見せながらもきちんとメリハリのきいたスローやズームで鮮やかに描く。見やすいアクションはマシュー・ヴォーンの映画ではお馴染みだが、今作においてはシリアスになったスパイ映画にありがちなブレたカメラワークの中で展開されるアクションへのカウンターパンチにもとれる。またヘンリー・ジャックマンのスコアも007を彷彿とさせながらも現代的なアクションスコアを鳴らす。

最後に役者陣についてだが、コリン・ファースの佇まいがとにかくかっこいい。大人しそうな雰囲気から放たれる洗練されたアクションも髪も乱れるほどの過激なアクションも華麗にこなしてしまう。惚れてしまいそうだ。タロン・エガートンもヤンキーな雰囲気がハマっていて、いつの間にかコリン・ファースの面影をきちんとトレースしているのが見事だ。他にも様々な場面でのサポートに徹するマーク・ストロングや紳士の頂点のようなかっこよさがあるマイケル・ケインはとてもかっこいい。逆にいかにもアメリカ人なフランクさといい加減さがはまるサミュエル・L・ジャクソンと素晴らしい身のこなしで圧倒するソフィア・ブテラは個性的で大胆な演技を見せてくれる。
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