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君が生きた証のpicaruのレビュー・感想・評価

君が生きた証(2014年製作の映画)
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【音に託した想いの話】

『君が生きた証』観ました。

原題は『RUDDERLESS』。
大大大好きなアントン・イェルチンが出演しているというので、気になって観てみた。

なんだこれ……
隠れた傑作、見つけた。
なんで映画館で観なかったんだ!? とめちゃめちゃ後悔した。
映画館で、あの音響で、体感したかった。

音楽が良すぎる。
音楽が紡ぐ物語が良すぎる。

銃乱射事件で息子を亡くした父親。
彼が遺した音楽と出逢い、歌い継ごうとギターを手にする。

これは、“かくれんぼ”だ。

息子が生み出した音楽を知るたびに、どれだけ自分が息子のことを知らなかったのか、思い知らされる。
彼が何を考え、何を感じていたのか。
探したい。
見つけたい。
でも、見つかった! と思ったら、それはまやかしだったりする。
「もういいかい?」なんて聞く前に、「まだだ」って自分でわかっている。

これは、“追いかけっこ”だ。

遺された音と失われた声。
もっと向き合うべきだった。
逃げてきた自分にようやく心が追い付いた。
まだ、間に合うか?
あの頃の、あの日の、あの時の、すべてを取り戻したい。
音が声になる。
もう一度、彼が自分の中から生まれようとしている。

ラストで主人公サムが歌った一曲、Sing Along。
この歌は、この詩は、息子に届いただろうか。
彼に「見つけた」と言ってもらえるだろうか。
彼に「つかまえた」と言えるだろうか。
遅すぎた答え合わせは、余韻だけを道連れにする。

サムの音楽に魅了され、バンドに誘うミュージシャン志望の青年を演じたアントン・イェルチン。
アントンが若くして亡くなったことを思うと、劇中の事件で亡くなった息子と重ねずにはいられない。
いたたまれない。
でも、だからこそ、アントンがギターを弾いてるシーンが美しく、尊い。
なにもかもが特別だ。

『君が生きた証』
それは、アントン・イェルチンが生きた証だった。
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