一人旅

トラッシュ!-この街が輝く日まで-の一人旅のレビュー・感想・評価

4.0
スティーヴン・ダルドリー監督作。

リオデジャネイロを舞台に、ゴミ山で財布を手に入れた貧しい少年・ラファエルが、仲間の少年たちと協力してその財布に隠された秘密を解き明かそうと奔走する姿を描いたドラマ。
ゴミ山に群がる貧しい人々の姿や無数の家屋が密集するスラム街といった大都市リオデジャネイロの抱える闇を浮き彫りにしながらも、決して悲観的ではない。むしろ、そうした貧困地区で日々を懸命に生きる人々の逞しさや、逆境に屈することなく自分が“正しい”と信じる行いを貫き通そうとする少年たちの姿を通じて、金銭的価値観では測ることのできない尊い希望をリオデジャネイロの闇の中に映し出している。
リオデジャネイロのスラム街の非情な現実ばかりを全面に出した『シティ・オブ・ゴッド』とは対照的に、本作で活躍する3人の少年は貧困から脱却するために暴力を持ち出したりはしない。むしろ、少年たちは欲望渦巻く政治家と公権力が振るう暴力の一方的な犠牲者であり、そうした社会の害悪に対して子どもらしい純心と正義感だけで必死に抵抗する。そうした意味で、本作は支配する者とされる者、そして無垢な子どもと欲望にまみれた大人を対比して見せている。あらゆる場面で穢れた大人が少年たちの前に姿を現し、それは子ども相手に賄賂を要求してくる看守だったり、暴力的手段を用いて少年を追い詰める汚職警官だったりする。
金銭的豊かさと心の豊かさは必ずしも比例しない。ゴミ山で少年たちの取る最後の行動がそれを象徴している。
演出面では、狭く入り組んだスラム街を舞台に繰り広げられる少年と警察の追走劇が見どころだ。屋根から屋根に飛び移ったり、外壁の縁にへばりついて移動したりと緊張感に満ちている。また、財布に隠された秘密を謎解いていくシーンの演出も素晴らしく、複数の小さな物品に託された秘密の情報が次々に繋がっていってやがて一つの答えが浮かび上がっていく様が鮮やかだ。
映像面では、高層ビルが立ち並ぶリオデジャネイロの都心部とビーチ沿いの美しい風景が印象的で、貧困者が暮らすスラム街と対比的に映し出されている。
そして、ジュリアード神父をマーティン・シーンが、教会のボランティア、オリヴィアをルーニー・マーラがそれぞれ好演している。2人は身寄りのない少年たちの唯一の味方であり、一歩引いた位置から少年たちを何かと手助けする役割を担う。そのため直接的にではないが、素朴な信仰心の尊さを少年たちと神父の関係を通じて示してもいる。
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