ホーキング博士といえば、多くの人が一度は耳にしたことがある名だろう。その名を聞いたことがある人なら、彼が宇宙に関することで偉大なことを成し遂げた人で、病に侵され車椅子の生活をしているというくらいの認識があると思うが、私も理系だが、ブラックホールが何とかというようなその程度の理解しかなく、彼の著書『ホーキング、宇宙を語る』を読んだこともなかった。ましてや彼が結婚して子供がいることさえも知らなかったので、この映画をきっかけにいろいろと興味が湧き、知るきっかけともなった。
まずこの映画、一見ホーキング博士の偉業を描いているように思えるが、彼の成し遂げた偉業よりも彼自身の伝記的物語、ましてや愛の物語であると鑑賞していて気付かされる。彼がどういう人間なのか、どういう経緯で奥さんと知り合ったのか、どうやって偉業を成し遂げたのか、なぜあんな形になってしまったのか。
大学時代から描かれ、のちに奥さんとなるジェーン・ホーキング(フェリシティ・ジョーンズ)との運命的な出会い、恋、そして病の発覚まで、割とスピーディーに描かれ、車椅子の状態になるのは結構早い段階になっている。それからの妻ジェーンの献身的なホーキングを支える姿に心を打たれるとともに、物語が意外な方向へと進んで行くので面白い。
ジェーンのとった行動は端から見れば不倫に思える。しかしながら、彼女のホーキングに対しての献身的な生活は、本当に愛がなくなった人間ができることなのだろうか。ホーキング、ジェーン、ジョナサン(チャーリー・コックス)の誰にも感情移入ができるので、そのなんとも言えない関係が見ていて切ない。ホーキングの楽観的性格は病気に対してはいいかもしれないが、妻側から考えるとこれまたなんとも言えなくなる。単純に泣けるとか感動するとかではない感情が込み上げてくる。
主演のホーキング博士を演じたエディ・レッドメイン。病気の役柄が受賞しやすいとは言われているもの(確かにこういう系統の方がレビューを書いていても高評価にしやすいとは自分でも思う)、あの若さでアカデミー主演男優賞を獲っただけはあり、ALSに蝕まれて、だんだん歩き方や話し方、呂律が回らなくなる姿を全く違和感なく演じている。
難病ALSに蝕まれながらも、病魔に打ち勝ち現在も存命で貢献しているホーキング博士からは、彼の研究のこともあって何か我々の次元を遥かに超越した力が働いているように感じてしまう。
思い返せば2014年のアカデミー主演男優賞は同じくホーキング博士を演じたこともあり、天才数学者という似た役所で名演していた『イミテーション・ゲーム』のベネディクト・カンバーバッチにアカデミー作品賞『バードマン』のマイケル・キートン、『アメリカン・スナイパー』のブラッドリー・クーパー、『フォックスキャッチャー』のスティーブ・カレルとどれも素晴らしく、かなりの激戦だったが、それを見事勝ち取ったエディには今後も期待が高まるばかりだ。
「事実は小説よりも奇なり」とはよく言ったもんだ。