絵画の窃盗事件は世界中で起こっており、その多くは高額な価値がつけられた有名な画家の作品。しかし、本作で盗まれたのは、決して有名ではない画家の有名ではない作品だ。
その上、自分の絵を盗んだ犯罪者に「絵を描かせてほしい」とお願いするのは、パートナーも心配するように、いわゆる“普通”の感覚ではないと思えてしまう。
しかしながら、その“普通”ならざる者たちが邂逅した先には、数奇な友情の形が垣間見えた。
視点を変えて徐々に見せていく構成も良い意味でドキュメンタリーと感じさせない絶妙な働きをしている。盗んだベルティルの内面の闇を見ていくうちに、次第に画家のバルボラの抱える闇も見えていく。人の絵を描くという、「見る・見られる関係」を通して、赦しを超えた互いの深い部分までつながっていくラストには震えた。
展示会から釘を抜いて消えた絵が、再び釘を打って展示される。新たに加わった作品には、「画家と泥棒」の関係を超えた2人の魂の交わりをみた。
分断が進む社会の中で、一見すると交わらざる者たちが交わるとき、そこに光が差す瞬間が見えた。見事なドキュメンタリーだった。