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博士と彼女のセオリーのmofaのネタバレレビュー・内容・結末

博士と彼女のセオリー(2014年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

【無限の感情の星を感じる】

昔、ほんの一瞬、ホーキング博士について調べたことがある。
物理なんてもの、その存在自体、「どういったものなのか?」分からない私。
 物理の「ぶ」も分からないのに、どうして、ホーキング博士について興味を持ったかというと、ひとえに、
「この人の生きる力は、どこからやってくるんだろう」と思ったから。
 車椅子で、動くことも、話すことも出来ないのに。
 彼は、その境遇をいとも簡単に受け入れているように思えた。
 とはいえ、調べるって言っても、
「ホーキング、宇宙を語る」を読もうとして、勿論、読めず。

「ふむ、天才の世界は、天才にしか分からない」と思いなおし、
ホーキング博士への興味は、終了した。


・・・という事もあって、
こういう映画が出来たことが嬉しかった。
 難しい本を読まずとも、ホーキング博士を知ることが出来る。


前半は、ホーキング博士が頭角を現し、研究に取り組むところ。
そして、ジェーンと出会う。
病気が発覚しながらも、研究を続け、ジェーンは彼を支える。

 後半は、その2人の関係性に変化が訪れていく。

 病気となったホーキング博士を支え続けた妻の話ではない。
妻は、夫の介護と、子供3人の世話で、疲れ果て、
ジョナサンと出会う。
そして、三角関係。

 きれいごとでは済まされない現実が描かれていく。
 
レッドメンの素晴らしさは、ホーキング博士にしか見えない・・という所ではない。
 限られた表現の手段の中であっても、
ホーキング博士の心を、きちんと表現できたところにあると思う。

 ジョナサンに嫉妬しながらも、彼を家に招き入れなければならないという切なさ。
自分は病気だから、そうするしかない・・・という諦め。
 けれど、そうしながらも、妻だけでは、触れることの出来ない世界を、
ジョナサンは与えてくれる、その喜びと感謝。
 妻との間に生じる冷たさや、
自分を瞬時に理解してくれるエレインと出逢ったときの喜び。

様々な感情の渦が、ホーキング博士の人間性を彩っていく。

 この過程が、違和感なく描かれていく。
原作は、ジェーン著書だが、ジェーンに肩入れしたくなるワケでもなく、
 多くの別れてしまう夫婦と同じように、
互いの関係が変化し、心が離れてしまったんだな・・と納得出来る。
 
こんな風に、夫婦の真実を描くことに、
嫌悪感を抱く人もあるだろうが、
私は、この現実を描くことのよってこそ、ホーキング博士の物語なのだと思う。
 
 長年の介護から、愛する人を解放した・・と描けば、
もっと美化されたはずだけれど、
 そうではない事を率直に描いているところに、
ホーキング博士の魅力と、この二人の愛が詰まっていると思うのだ。

 ホーキング博士と、ジェーンの関係は、
恋人から夫婦、そして、同志になっていたように思う。
 医師から延命措置をすすめられながら、声を失ってでも生かせようとしたジェーンの姿は、
愛ではなく、彼を生かせることの使命であったように思うのだ。

 そういう意味では、レッドメンの演技だけでは、
この作品は成り立たなかった。
 ジェーンの心の変化を見事に演じきったジョーンズにも、拍手を送りたい。



  残念だったのは、ホーキング博士の、
博士としての素晴らしさが、イマイチ、伝わって来なかった。
 正直、その凄い証明の何が素晴らしいのか、
私は全く理解出来ないから、その素晴らしさを知るには、映像の力に頼るしかない。
 だから、時代が昔であろうとも、
もうちょっと、大袈裟に描いてみても良かったんじゃないかな・・・。
 

 天才の世界は、天才にしか分からない。
けれど、そうではなかった。
 ホーキング博士は、自分の境遇の中で、
あらゆる感情と戦っている。
 この映画は、その一部を見たに過ぎない。
ホーキング博士の、あの小さく縮こまった体の中には、
無限の感情の星が散りばめられている。
 
 制限のある体だから、心にも制限があるワケではない。
多くの感情の中から、溢れ出たものだからこそ、
ホーキング博士の表情は、輝いて見え、深みを帯びる。
 
ホーキング博士を演じるレッドメンを通して、
その向こうに広がる感情の星を、感じることが出来た。
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