垂直落下式サミング

仮面ライダー1号の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

仮面ライダー1号(2016年製作の映画)
4.1
かなりゴツくなった1号パイセン!刃牙道脳(バカ)なので、肉体の全盛期を過ぎた武術家は力も素早さも体力も落ちていって、分厚い筋肉の鎧は骨に張り付く皮だけになり、しまいには箸と茶碗を持つ手に重さを感じるほどに衰えるのだけど、そうなった老齢の達人たちは、わかりやすい「フィジカル性」ではなく「技術」という別種の強さの極意に至るのだと、そう思っていた。そしたら、まさかのパワーがさらに向上だと?!ホントに現役時代よりパワー系で、あの愚地独歩もビックリ!技の1号!力も1号!
伝説の初代ライダーは、チャラさもヒーローのうちな線の細い現役世代のなかにはいると、昭和ジジイが現代に順応できてない感じが浮き彫りになって…、さらには宿敵であるはずのショッカーでさえも、旧体制に嫌気のさした若い怪人たちの離脱と謀反によって現代的な悪の組織となり…、このストーリーにちょっとした虚しさを感じるも、藤岡はアクションの人であり、人生でヒーローを演じている人なのだという安心感が盛り上げてくれる。
最初バンコクで襲撃されるシーンは、ランボー4のような戦闘マシンっぷりを発揮。悪党の手のひらに箸をぶっ指す。甘っちょろい平成ライダーの世界に、残虐な暴力と悲しみが入り込んできていた。
どっしりとした風貌。常に仰々しい物言い。藤岡が普段のそのまんまの様子で、老いた本郷を演じている。引退したライダーは、山奥のログハウスで自給自足で暮らすんだよ。コーヒーも好きだしな。
白眉は、教壇に立つ本郷猛。戦争も、環境破壊も、人間が自分の大切な生命を守るために誰かを傷つけてしまうことが原因で、それは自己中心主義でエゴイズムだと、かなりの熱量で語りはじめて、突然それを聞かされた高校生たちには「何言ってるの?このおじさん。」とヒソヒソ声で嘲笑されてしまう。
生命の美しさとは、武士道とはなん足るか、ヒーローとはかくあるべしと、そんなことを言われても、若者はメッセージを受け取らないどころか、オッサンの暑苦しい語りは面白がられて笑われてしまうのだ。現実問題として、若者たちは、インチキ臭いおっさんが喋ってることなんて、寝言だと思って話し半分もきいてやしない。そういうもんだ。
あーあ、いつもの説教オヤジが始まっちったかと思ったら、ちょっと様子が違う。本作には、藤岡的ヒーローという偶像への客観的な視点がある。事実、本郷は若者たちに真剣に話を聞けとは言わず、一方的に語るのみ、ただ微笑むのみ。彼は投げ掛けるのみで、相手に共感は強要しない。
であるからして、昭和オヤジのヒーロー観は時代遅れだし、確かに今にそぐわないということに、本郷は自覚的なのではないか?そういう意図のある作品だと思ってみると、かなり味わい深いテーマを持った一本であることが浮き上がってくる。
敵についても、ショッカーが二派閥に内部分裂を起こしている新解釈が面白かった。いまだに武力によって世界征服しようとしてる旧ショッカーと、経済への介入によって暗躍しようとする営利企業ノバショッカーにわかれているのが、もう言わんこっちゃないって感じだし、それぞれ怪人の描きかたも違っていている。
デザインにおいても、旧ショッカー怪人は色合いが毒々しくてスーツもツルッとしているのだけど、ノバショッカー怪人は改造のベースとなっている生き物はシンプルなのに、毛並みやアクセサリーが凝っていて今風な悪っぽさを醸しており、派閥の思想的な対立が視覚的に分かりやすくなっている。
往年の名幹部である地獄大使も復活!こいつ大杉漣さんなのか。彼も本郷と同じく、時代に取り残された自分のやり方は古くさいものだと知りながら、この方法論しか知らないし出来ないから愚直にがんばる。ガジェットに頼るな!自分を失っては意味がないぞ!現代ライダーへの痛烈な批判の視座ではないか。これをクラシカルな往年の悪役に言わせたのがすごいよ!
おやっさんの最後のマシン「ネオサイクロン号」は、ホンダの大型お高いオヤジバイク!ノーヘルで走り去るエンディングは、もちろんレッツゴーライダーキック!(残念ながらオリジナルバージョンではない気がするけど。)このゴツい見た目の1号だったら、こっちのでもカッコいいね。
余計なもんついてないその雄々しいステゴロスタイルでもって、自己実現と幸福追求に目を奪われがちなみみっちい現代人に、生身の自己犠牲によって共同体を守るストレートなヒーローの矜持を授けてくれたと思う。
メインであるはずのゴーストってやつのことがよくわかってないんだけど、とりあえずチャラ度合い低めで大先輩を敬える系だったから一安心。フォーゼの弦太郎とか、いきなりタメグチこきそうで危なっかしいから、1号復活はこのシリーズでよかったと思う。
ゴーストは、いにしえの英雄たちの魂をその身にまとって戦うという設定らしい。なるほど、なるほど、シャーマンキングですね(違う)オレンジの状態は宮本武蔵らしい。本作を刃牙と倫理観で読み解いたのは、あながち間違っていないのではないかな?