MasaichiYaguchi

世界から猫が消えたならのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

世界から猫が消えたなら(2015年製作の映画)
3.8
エンドロールが流れても席を立つ人がいないという試写会を久し振りに経験した。
川村元気さんのベストセラー小説を、佐藤健さん、宮崎あおいさん共演で映画化した本作は、観終わった後に心に沁みるような余韻が残る。
ある日突然、余命僅かと宣告された青年が体験する不思議な出来事の数々を描く本作は、原作者が映画プロデューサーということもあり、映画愛や家族愛、そして猫に対する愛に満ちている。
物語は、「何かを得る為には犠牲が伴う」という言葉通り、主人公が僅かな余命を伸ばす為にした“悪魔”との契約によって、世の中から物が一つづつ消されていく様をファンタジックに描いていく。
そして、「大切なものは失ってから気付く」ように、物が消されていく中で主人公は自分の人生にとって掛け替えのない存在に気付いていく。
函館や小樽、海を越えてアルゼンチンやブラジルを舞台にして主人公を巡るドラマが、主演の二人をはじめとして濱田岳さん、奥田瑛二さん、原田美枝子さんという演技派キャストの繊細な表現で紡がれていく。
一つ一つのシーンが絵画のように美しく、映像詩を観ているような気分になる。
人は普段、何気なく生活している時は、自分の周りにいる人々や物に対して気に留めることは少ない。
本作の主人公の様な状況に置かれて初めて、自分が如何に周りから大切にされ、守られ、愛されていたのかを知る。
この作品では、主人公が「死」と向き合えば向き合う程、逆説的にその「生」を描いているように思う。
「死」が「生」を限りあるものにしているからこそ、限られた「生」の時間を如何に生きるべきなのか、そして人生を実りあるものにしてくれるものは何なのかを、本作は優しく静かに語り掛けてくれる。