Eike

ランダム 存在の確率のEikeのレビュー・感想・評価

ランダム 存在の確率(2013年製作の映画)
3.3
一風変わった「SF映画」。
原題は”Coherence” 「可干渉性」。
こういうのがアメリカ人が良く口にする"Mind-bending"/"Mind-boggling"な作品というのでしょうか。

粗筋を追ってみても「なんのこっちゃ」となりかねないややこしさ。
ただ、映画のタッチそのものはSF/ドラマ/ミステリー/ホラー的なエッセンスも散りばめられていて意外とエンタメ度も高いと感じました。
そうは言っても、スペクタクルやアクションといった要素はほぼ皆無な訳で賛否が分かれるであろうことも想像できます。
いざSF・サスペンス映画と構えてみると会話劇が延々と続く導入部に肩透かしを食った気になるかも...。

彗星が夜空を妖しく照らす一夜、とある家に集った4組の友人たち。
楽しげな軽口で食事を楽しんでいる彼等ですが、それぞれが日々の生活や自分たちを取り巻く環境に葛藤や思惑を抱えております。
そんな最中に突然、謎の大規模停電が起き、その闇の中で不可解な出来事が次々と発生して...。

本作は極めつけの低予算作品といえます。
製作費は日本円で1000万程度、撮影日数はたった5日間で撮り上げているらしい。
しかし、なぜかいわゆる”B級SF映画”のチープな匂いはあまりしない。
二転三転する展開はラストの落としどころを含めて大胆というかでたらめさも感じさせるB級らしいものなのですが。
この異色の集合劇としての体裁が低予算の言い訳の為ではなく、ドラマを生かす目的であることが明らかだからでしょうか、中々にクレバーな作品といった印象が強い。
それでいて物語の進展の中でミステリアスかつ意外なひねりも無理なく盛り込まれいて中盤以降は中々にサスペンスフルでゾワゾワとした雰囲気も上手く創出できてます。
写真や、赤と青のグロースティックといった小道具の使い方も悪くない。
ただ、舞台劇っぽい、そのアプローチはかなり独特で好き嫌いが分かれそうではあります。
劇中の会話シーンは鍵となる展開の説明に当たる箇所以外は大部分が役者のアドリブに任されているそうです。
集合劇ではありますが、一応ヒロイン、エム(Emily Baldoni)の視点から描かれているので見る側のポイントも定めやすく、後半のグルグルとした展開にも置いてきぼりを食った感じにはならない辺りも好印象です。
それでいて劇中で次々に起きる「怪異現象」(と、言ってしまおう)には一応「シュレディンガーの猫」を引き合いにした説明もなされておりますが、明確な回答はつけられていない...と言うかそこに物語の核心がある訳ではないのですね。

ヒロイン、エミリーがこの不思議な一夜をどう乗り切るのか、それを追いかけるドラマとして見れば良いのかなと感じました。
その物語を生かす為の会話劇であり、人間関係の丁寧な描写だったりする訳で見方によるとかなり変な映画とも言えますが奇妙なお話としても楽しめました。

本作が長編デビューとなる監督・脚本の James Ward Byrkit氏の名前は覚えておいて損がないかも。
こういう「何でもありの変なB級映画」にこそアメリカ映画の底力が感じられるものなのだ。
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