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百日紅 Miss HOKUSAIのくりふのレビュー・感想・評価

百日紅 Miss HOKUSAI(2014年製作の映画)
3.0
【江戸の片隅にフリーダ・カーロ】

…いや、あのごんぶと眉毛はそうかなと(笑)。一般女子な生き様でなかった点も似てますが。

そんなお栄さんを一般向けに巧く紹介したとは思います。が、原作の魅力からだと、その一部を口当たりよく薄めた仕上がりですね。

一話完結三十話から浮かび上がる、濃厚な江戸コスモロジーに比べるとTVドラマぽくて、物足りなかった。

本作で縦糸となる、お猶ちゃんのエピソードは原作では1話のみです。確かに今ウケそうな話ですが、原作独特の死生観からだとお涙頂戴にひよったな、と思います。原作がドライというより、江戸時代はそうだったのか…という現代との差異が味わいなのに。

原作では武家屋敷の門前に、女の生首が置かれるところから始まるのですが、スタート地点からしてまるで違いますね。原作と違うところにクレームつけたいのではなく、原作の豊かさを矮小化していてもったいない、と思ってしまうのです。

これならオリジナルで作った方がよかったと思う。杉浦作品独特の静止画表現とコマ割りに匹敵するものも、映画の表現に見つからなかったし。

映像化でよかったのは、キツネお姉さんと花魁の柔らかな艶っぽさ。あ、原監督、ふつうに女好きだねと思った。ここから女性作家特有のゾッとする壮絶エロスまで再現してくれたら拍手ものでしたが…。

タイトルも、お栄さんを主役にしたことで、画狂人北斎の無尽蔵を狙った原作者の意図とはズレてしまい、Miss HOKUSAI、という蛇足が必要になった。例えば『百日紅の娘』ならまだ近かったと思う。…なんか振り返ると文句ばっかりだな(笑)。

でも題材的には海外でウケそうですね。アヌシーで何か受賞できるかも。

ちなみにお栄さんの姿は、北斎の弟子が描いたスケッチが残っていますが、それを元にした「北斎の画室」というジオラマが江戸東京博物館に展示されており、ちょっと参考になります。確かに「アゴ」ではありますね(笑)。

https://www.museum.or.jp/report/102314

<2015.5.15記> (※江戸東京博物館は現在休館中)
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