さすらいの用心棒

吹けよ春風のさすらいの用心棒のレビュー・感想・評価

吹けよ春風(1953年製作の映画)
4.0
タクシー運転手(三船敏郎)がルームミラー越しに見る乗客の人間模様をオムニバス形式に描くハートフルムービー。

脚本・黒澤明、谷口千吉。
三船敏郎×黒澤明の黄金コンビは監督作のみならず脚本作にまで及んでおり、三船のデビュー作『銀嶺の果て』から『ジャコ萬と鉄』『荒木又右エ門 決斗鍵屋の辻』『愛と憎しみの彼方へ』『戦国無頼』『姿三四郎』とコンビ作は数多にわたり、本作『吹けよ春風』はデビュー作と同じく監督・谷口千吉、脚本・黒澤明、出演・三船敏郎の面々が揃って原点に立ち返った作品でもある。
ストーリーは乗客によって章立てられ、若いアベック、集団児童、家出娘、人気歌手、酔っ払い、犯罪者、老夫婦、出所者など、計八話にのぼり、それぞれが独立したエピソードになっている。
ほとんどのエピソードで主人公はお客さんに親切にするあまり金銭的にはむしろ損をしているのだが、それを惜しむでもなく、お金では買えないようないい気持ちをもらったと、晴れ晴れとした口調で回想が流れてゆき、見ていて実に気持ちがいい。
エピソードとしては、

喧嘩したと思えばすぐに仲直りするカップル。
二十人くらいの子どもを乗せての賑々しいドライブ。
家出娘を家に帰そうと苦心する一幕。
三船敏郎と越路吹雪によるデュエット(!?)。
酩酊した小林桂樹と藤原釜足のちょっと可笑しい迷惑劇。
息子を亡くした老夫婦の再生。
三國連太郎のハイジャック・サスペンス。
山村聰と山根寿子の夫婦と子どもたちの感動話。

など、実にバラエティ豊かでありながら、細かいディテールの累積がリアリティを生み、一話ごとに味わいがある。
乗客に声をかけることに積極的なわけでもないのに主人公が巻き込まれて行くきっかけも巧みで、さすが脚本を大切にしてきた黒澤明と谷口千吉の配慮が表れている。
バックミラーにぶら下がっている人形について最後まで言及されないが、後年の同監督作『33号車応答なし』で警官が奥さんお手製のお守り人形をパトカーのバックミラーに吊り下げるシーンで、その説明をしている、と思う。
キャスト面も豪華だが、助監督・堀川弘通、音楽・芥川也寸志などスタッフ面も逸材ぞろい。
爽やかな春風がさっと胸を吹き抜けるような、やさしい映画なので是非オススメ。なぜ未だにソフト化されていないのか!