emily

壊れた心のemilyのレビュー・感想・評価

壊れた心(2014年製作の映画)
4.1
 フィリピンのスラム街。冷酷な殺し屋が護衛を頼まれた組織の女と恋に落ち、二人の逃避行が始まる・・それは破滅へのスタートだった・・

 言葉はすべて生活音の一つとしてBGMとして捉えられてる。殺し屋を演じる浅野忠信が言葉を発する事はない。表情と字幕が付く音楽、街の描写、人々の描写、手持ちカメラの揺れを巧みに操り、薄暗いスラム街の中に溢れる色彩が見事に幻想的に浮かび上がる。まるでドキュメンタリーのような淡々とした描写の中に対照的な物がごちゃ混ぜにして映っており、即興的奇跡の映像の数々に魅了される。

 言葉をそぎ落とし、生活音もそぎ落とし、小さな効果音のみが流れると、敗退的なスラム街がたちまち殺し屋とボスの女の二人だけの世界と化する。それは幻想的な夢の世界で、ただお互いにその時間が永遠に続くことはないことを知っている。だからこそ音を削いだ描写が二人の心情をよく捉えている。

 セリフがないため、小さな動きを見逃す事も許されない。時折無音になり見せる映像美からしっかり二人の心情がこぼれ、自撮りで捉える、二人と街のネオンは緊迫感を感じさせながら、常に幻想感が漂う。そのラストは彼らもそうして観客も想像が出来る現実的なラストである。だからこそ愛の逃避行の現実と幻想の入り乱れた描写は瞬間をとらえるように美しく、永遠の物と化する。青いフィルムのかかった映像の数々、二人で居る時間の自由と対照的な迫りくるものを色彩で表現し、壊れた心を音楽が中和し、耳にストレートに問いかけてくる。

 全く新しい描写法、アイデアと映像美の宝庫。当たり前に想像できる音を削ぐ事で見えてくる世界。それは一つの未来への光でもある。

 
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