ブラックユーモアホフマン

ナイト・スリーパーズ ダム爆破計画のブラックユーモアホフマンのレビュー・感想・評価

4.8
巧いなぁ〜。巧い。すごい。

下高井戸シネマで観た4本も良かったけど、これが一番好き。

下高井戸シネマで観た4本は、あえて劇的なドラマを避けているように感じたけれど、本作はそれと比べるとかなり劇的。もちろんそれでもすごく抑制されてるんだけど、起こることの重大さは一番”物語”らしい。

そういう映画のことを一番好きって言うのめっちゃダサい気もするけどしょうがない。すいません、単純な感性で。

副題「ダム爆破計画」て。ポスターも含め、公開当時ケリー・ライカート作品を日本でどう宣伝したらいいか、かなり迷走してる感じ出てるな。S・クレイグ・ザラー作品にも通ずる。作家性の強い監督の作品って確かに、ある程度監督が名前や過去作で知られているようじゃないとどう宣伝していいか微妙だよな。とは言え、こんなビジュアルじゃやっぱスルーしちゃうよな。それを発掘する人たち、凄い。

単純に、大好きなジェシー・アイゼンバーグとピーター・サースガードが出てるっていうのも個人的にはポイント高い。

ミシェル・ウィリアムズも素晴らしい俳優だと思うけど特別好きではないし、『ミークス・カットオフ』には大好きなポール・ダノとゾーイ・カザンも出てたけど端役だったし、本作が一番キャスティングの好みが合ったっていう身も蓋もない理由もある。

ジェシー・アイゼンバーグはやっぱり最高だなー。お得意の早口演技は封印して無精髭も生やしてシブい演技に徹しているけど、やっぱめちゃくちゃうまい。さすが。

妹エルが、2、3年前はカンヌの審査員なんかもして映画界のミューズ的存在として一大旋風を巻き起こしていた反面、子役時代と比べて最近は地味な印象があるダコタ・ファニングだけど、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でもすごく良かったし、実は妹より出る作品のセンスがいいかも。ぜひ今後も注目したい。

キャサリン・ウォーターストンも少し出てるけど、『インヒアレント・ヴァイス』より前だからまだあまり知られてなかった頃だな。

ケリー・ライカートは、他の作品もだけど音の組み立て方が素晴らしい。遠近感を巧みに利用して立体的に構築してるから世界の広がり方がすごい。

そしてやっぱり「車」がキー。店員とのやり取りのハラハラ感は『リバー・オブ・グラス』や『ウェンディ&ルーシー』を、夜の森や山道をヘッドライトが照らす画、そして温泉というモチーフは『オールド・ジョイ』を思い出す。そして最後は『ウェンディ&ルーシー』同様、家を得るための金を稼ぐために家が必要という矛盾。

A24製作の「First Cow」は日本でも公開されるだろうか。楽しみ。

作品の内容とは全然関係ないけど、たまに映画を観ててもデジャヴが起こることがある。今回は、ジェシー・アイゼンバーグとピーター・サースガードがトレーラーの中で話すシーンが、どうしても一回見たことある気がした。でもピンポイントでそこだけ見たことあるなんて考えづらい。不思議。

【一番好きなシーン】
鹿のシーン。