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くもとちゅうりっぷのくりふのレビュー・感想・評価

くもとちゅうりっぷ(1943年製作の映画)
4.5
【レディ・バードは汚されない】

レンタルした『桃太郎 海の神兵』DVDにセットで入っていたので、見ました。

アニメ史的には重要な作品とは知りつつも、初見です。

デジタル修復版でも、そうよい画質ではなかったものの、16分に2万枚の動画を使ったという、動きの素晴らしさは充分、伝わりました。それをさらに活かすカメラワーク、世界をひろげる背景美術。その総合、いま見ても、一級品だと思う。

タイトルは蜘蛛とチューリップですが、実際は蜘蛛と天道虫のお話。

政岡憲三監督が、奥さんの水着姿をモデルに描いたという天道虫は、昭和の絵本に出てきそうな三頭身少女キャラですが、妙に色っぽかったりする。

対する蜘蛛は、よく言われるアフリカン風というより、ミンストレル・ショーの扮装をした誰か、に思えます。

短い童話が原作とのことですが、上記キャラが流されてゆく物語も、噛み応えありますね。戦時中ということで、日本女性を狙う外来種を神風が…という解釈があるようですが、そこまで考えていなかったんじゃないかなあ。

単純に、ディズニーのシリー・シンフォニーを目指したようにも思えます。

個人的には、性的暗喩が面白くて。

蜘蛛は、普通に捕食行動をしているだけなのに、擬人化することで妙な余白が生まれている。正体隠した蜘蛛男が、少女を白い糸でべとつく、自家製ベッドで包もうと、ストーカー行為を続けるようにしか思えない。

で、花弁を使って介入するチューリップが子宮的な保護者で、少女の聖性を守ろうとする。性的だけど、子供向けに健全だ(笑)。

ヒロインを天道虫とした意図は、英語のladybirdsから解釈した方が、本作には相応しく、味わい深くなります。…当時だと敵性語だけれども。

戦意高揚からまったく外れた物語を紡げたことは、当時としては貴重だったようですね。本作、できればより画質のいい版で、劇場で見てみたいです。

<2021.10.6記>
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