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ズートピアのRenのレビュー・感想・評価

ズートピア(2016年製作の映画)
5.0
完璧な映画。何度も観たけど先日急に観たくなって久々に再見した。少なくとも21世紀のディズニーアニメーション史上最高傑作、CGアニメーションのマスターピース。世界中で大ヒットするのは当然。

人種差別のドラマと本格ノワールが、ゆるふわ萌え系バディムービーの皮を被って襲いかかる。
キャラクターデザイン(ケモナーの方曰く動物キャラが靴を履いていないのが良いらしい)と、動物たちがスクリーンを縦横無尽に動き回るアニメーション表現が至高。後にも先にもこれを越えるアニマルアクションは無い。
感想の第一声は「多様性社会における差別意識を動物のメタファーを利用して可視化した....」ではなく「ジュディ可愛い〜ニックかっこいい〜グッズ欲しい〜」が正しい。その上で、そうやって外見のジャッジをその人自身の評価とイコールにしていいのか?を考えるべき映画。

他者をステレオタイプに当て嵌めて知った気になることの暴力性を炙り出す、差別と偏見の映画。ディズニーが実写でやれるわけがないエグすぎる話を、実写以上に鋭く抉る。先入観や偏見を匂わせる展開が1分に一回ある。

差別する側とされる側、という安易な二元論に逃げていない点が誠実で素晴らしい。主人公のジュディはウサギ&新人&女性の三重の偏見で他者から見られるけれど、彼女は彼女で不用意に肉食動物やキツネをステレオタイプで括った発言をしてしまう。今回改めて観て、差別をやめよう!という一方通行の話ではなく、あなたも差別をしてしまうかもね(だから相手に歩み寄ろうね)と警鐘を鳴らす映画だと思ったし、誰に感情移入しながら観ていてもそこにハッと気づかされる映画だった。
それだけに、本来持ち合わせた個性を尊いものとして描くことを決して忘れない。ニックの狡賢さとジュディの生真面目さが事件を好転させる場面がそれぞれ数回ずつある。

↑....という部分で語られすぎた映画だけど、それ以前にジャンル映画として出色の完成度なので未見の人にはシンプル面白映画として観てほしい。脚本が巧すぎる。連続失踪事件の真相に迫るバディものかつタイムリミットものであり本格ノワール、自分は『L.A.コンフィデンシャル』を想起したけど、参考作品は無限にありそう。
中盤に『ゴッドファーザー』を完コピしたシークエンスがあって、骨太なサスペンスを作ろうとする覚悟が感じられた。

その他、
○ やっていることは『第9地区』にかなり近い。アパルトヘイト政策をエビ宇宙人のメタファーを用いて表現したSFの傑作だけど、こちらでも主人公の差別する/される関係が目まぐるしく変わる。
○ 序盤のニックの詐欺シークエンスだけで先入観の危険性の話が5個くらい入ってる。情報の圧縮が凄すぎて意味が分からない。ここで提示された「ニックはズルいキツネ、ジュディはコロっと騙される間抜けなウサギ」が最後の台詞に効いてくる。
○ 『シュガー・ラッシュ』以降 数作に渡ってディズニー作品のお決まりになった「意外な黒幕」展開は、今作が最もハマっている。先入観とズレがテーマの話なので、「お前だったんかい」に単なるミステリ的な驚き以上の意味がある。
○ こと伏線回収の鮮やかさで言えば、ディズニー作品は『シュガー・ラッシュ』と今作が二強。パズルのような論理構成でこれらより優れた作品は多分無い。
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