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マウス・オブ・マッドネスの都部のレビュー・感想・評価

マウス・オブ・マッドネス(1994年製作の映画)
3.8
本作はカルト映画を数多く制作したジョン・カーペンター監督の代表作で、とあるジャンル映画なのですが特にそれに関しての事前の知識を必要とせず、人間が相対する根源的な恐怖を夢か現かの曖昧な境界線の上で映像として描写した秀作です。

厭世観が漂う序盤から物語への興味関心の引き方が優れており、ホラー作家の新作を読んだ人間が集団的凶行に走り始め……という水面下で確実に何かが起きているというじりじりと這い寄るような不穏感が、徐々に主人公の生活や世界に侵食してくる嫌らしさは素敵。
この映画は90分程度の映画なのですが、序破急と隙がなく物足りなさを感じない要素の詰め方なのも無駄がなくて好印象です。

現実と虚構を彷徨うような心理的な酩酊感はたびたび映像演出により明示され、非現実的であるはずの架空の街での出来事が連鎖的に発生する様相は観客の心理すら揺らがせ、パブリックイメージとしての悪夢のような映像が続くのは小気味がよい。ヌルッとゴア表現が挿入されるもそこに露悪的な嫌らしさはなく、あくまでもその悪夢に対する再現性を高める為の物として配置されているのも拘りのB級って感じで良いですね。

サスペンスミステリとしての質感はかように上々で、本作の最大の仕掛けが明かされ迎える結末も全てにおいてクール。あまりにも意地が悪いのですが、それは創作の持つ写実的な態度を逆手に取ったようなニヒルな締め方で、『面白い映画だった……』とこのワンシーンをもってして観客に言わしめる堂々たる貫禄があるのはまず間違いないですね。
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