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ヴィンセントのTnTのネタバレレビュー・内容・結末

ヴィンセント(1982年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

 ティム・バートン第1作目。ディズニーでこれを作り上げたそうだが、明らかに当時ディズニーには無いダークな、しかし子供心に抱くファンタジーを表現して見せた。そんでもって彼は、如何に子供の頃のイマジネーションを映像化するかを今に続くまでずっとしているように思える。

 冒頭のモノクロで映し出された平面性が、猫をフォローしていくと一気に奥行きを持つ。彼の世界は平面的でなく、常に立体であった。造形物にこだわり、それは近年のCGを取り込みまくっている所まで一貫している。それは脳内という重力に縛られない、寺山修司に言わせれば「想像力より高く飛べる鳥はいない」場であるのだ。後にバートンが原作の「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」の冒頭のグングンと奥へ進むカメラワークを思わせる。

 憧れのヴィンセント・プライスに声をやってもらうということ自体が、ティムバートンと主人公の憧れの一致によって、ほぼ同一人物であるとわかる。みんなが大人になる際に捨て(させられ)た、歪な子供心を思い出させる。この現実と虚構の間で苦しむ全ての人々を表す。昔はティムバートン作品はまさに子供目線から圧倒的に楽しんだのだが、今見るとその幻想は少しばかり薄れ、むしろ今作の間の苦しみの方が理解できてしまう。まぁ結局、彼は幼少期に鍛え上げた妄想力でもって映画を撮りまくっているにすぎない。どの映画も、知性とかそんなものではなく、忠実な幼少期の想像力を大人になっても絶やさず作り続けている。今作の主人公が迎える混迷とその闇の中への投身は、テリー・ギリアムの「ゼロの世紀」のラストを彷彿とさせる。そういえば彼もこのタイプの、幼い頃の夢を捨てられない大人であった。おそらく園子温もその部類だと思う。絶賛批評口調で作品を見ると、彼らの作品は少し青臭く大人気なくて嫌な瞬間もある。でも、他者の目にありありと捨てなかった自身の子供心を見せつける時のパワーはどんな映像作家の表現も上回るビジュアルなのである。今作のビジュアルもまたブレない徹底された世界観で、またどこかクリーピーなキャラなのに愛嬌があるから不思議である。
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