Sari

神々のたそがれのSariのネタバレレビュー・内容・結末

神々のたそがれ(2013年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

2021/10/10 DVD

原作ストルガツキー兄弟のSF小説「神様はつらい」(1964年)の映画化作品。

ロシアの巨匠アレクセイ・ゲルマン監督は、本作を監督第一作にするべく、小説刊行当初から論んでいたが、1968年の「チェコ事件」により挫折し、映画の構想を立ててから35年後の2000年に撮影開始、全ての撮影を終えたのが2006年と長期の歳月を要した。しかしゲルマン監督は完成を目前に他界してしまい、妻で共同脚本のスヴェトラーナ・カルマリータと映画監督でもある息子が最終工程を引き継ぎ完成させた。

物語は、地球より800年文明が遅れ、未だに中世暗黒時代のような暮らしぶりの惑星アルカナルに、地球から30人の学者たちが派遣され調査を開始する。良き発展の道への誘導を模索するが、神の申し子と崇められるドン・ルマータは傍観に徹する事を厳令されており、手出しが出来ず、虐殺されてゆく人々を、混沌と退行していく世界をただ眺めることしか出来ない。

タルコフスキー監督『ストーカー』と同原作者で、一度観ただけでは理解不能と承知し、寝かせていた本作をようやく鑑賞。
想像以上の怪作というべき傑作。ひたすらに続く灰色の泥水と、人間の吐きつづける唾と糞尿、臓器にまみれる3時間。私が観た映画史上「最も汚い映画」と言えるが、人間の醜さを包み隠さず描き、時にカメラ目線の登場人物たちの眼差しから浮かび上がる、芸術か否かの問いを我々に投げかける作品であろう。

至近距離でのカメラワークと言い、モノクロームの彩度で抑えられてはいるが、むせ返るような臭気がこちらまで漂ってきそうな生々しさや、不潔に徹底した演出に目を奪われる。

映像表現は、タルコフスキー監督『アンドレイ・ルブリョフ』、アレクサンドル・ソクーロフ監督の『ファウスト』などの系譜を辿り、雨や霧、炎などの屋外での幻想的で美しい演出も際立つ。
絵コンテを元に細部まで再現した構図、中世ルネッサンス期にとどまらない前衛的な美術など、ゲルマン監督が文字通り命を捧げた映像の力というものにとにかく圧倒される。

しかしタイトルの『神々のたそがれ』より、原作の「神様はつらい」のほうが、しっくりくる感じは否めない。

2021-298
Sari

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