MasaichiYaguchi

はなちゃんのみそ汁のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

はなちゃんのみそ汁(2015年製作の映画)
4.0
本作は実話を元にした難病ものだが、共感や同情を引かせるような“不幸自慢”の演出もなく、とても“自然体”で或る家族の物語がユーモアを交えながら描かれていく。
主演の広末涼子さんと滝藤賢一さんが実在の安武夫妻を演じているが、実生活でも3児の母である広末さんの母性愛が作品全体を包み込み、そして近年では腹に一物のあるヒール役が多い滝藤さんが、喜怒哀楽をストレートに出し、妻や娘をこよなく愛する純で優しさ一杯の夫であり、父でもある信吾を魅力的に表現している。
この作品には悪者は登場せず、病魔と闘っている安武一家を周りの人々がさり気なく気遣い、救いの手を差し伸べていく。
逆境の中でも笑いを忘れない、愛と優しさに満ちた本作は単なる“お涙頂戴もの”ではない。
本作の中心にあるのは「生きる」ということ。
ちゃんと生きるにはちゃんと食べることが必要で、ちゃんと食べるにはちゃんと作らないといけない。
この生きる営みの中で“当たり前”のことが、忙しさにかまけて御座なりになっている人が多いような気がする。
本作にはタイトルにあるみそ汁以外にも玄米ご飯や沢庵、焼魚等のシンプルだけど手間暇かけた美味しそうな料理が度々出て来る。
そしてこの「食」の在り方を中心に子の成長を願い、日々生きる術を伝える親の役目としての“当たり前”も心に沁みるタッチで描かれる。
”ツイている人生”、言い換えれば幸せな人生は、生きる時間が長いとか短いとかではなく、ましてや裕福であるとか、社会的地位とか名声に彩られたものではなく、人々の温もりや優しさに囲まれ、精一杯生きることにあると思う。
ラストの方で描かれた我々が忘れがちな何気ない日常にある愛おしさ、掛け替えの無さが熱い思いと共に胸に広がっていく。