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イロイロ ぬくもりの記憶のIkTongRyoのレビュー・感想・評価

イロイロ ぬくもりの記憶(2013年製作の映画)
3.5
シンガポール人が抱く孤独感と闇、フィリピン人が家族のために出稼ぎ行かないといけない実情など、90年代の陰鬱とした東南アジアの雰囲気を体験できる。

金融危機、失職、ネグレクト、いじめ、自殺、そして外国人への差別。

映画で描かれるこれらの要素は、日本人もダイレクトに共感できる問題や空気感でもあり、決してシンガポール特有のものではないことがわかる。

しかしそんな鬱々たる状況でも、どこかに「ぬくもり」は存在するのだ。


英題の「イロイロ」は、フィリピンの地名イロイロのことで、監督の少年時代のメイドの出身地から取られたもの。

一方、中国語の題名は『爸妈不在家』、つまり“父と母が家に不在”という意味を持つ。

経済が落ち込み、少子化が進んでいる日本でも半世紀前から社会問題化している「カギっ子」。両親が共働きで不在のため、一人っ子が放置されている状況。

シンガポールなどのメイド文化がある地域では、家事・育児の負担をフィリピン人などに背負わせることで解決を試みる背景がある。

だからこそ、今作ではよそよそしい親子の距離感と、子供と常に一緒にいるメイドとの親睦が対象的に描かれている。

・学校でいじめられている息子は、家庭でも孤独感を感じ、唯一のよりどころは「たまごっち」
・父は母の尻に敷かれ、自宅での居場所がなくなっている
・母も母で、生まれてくる赤ちゃんのために必死になって生きている。

子供はもちろん、大人である母と父が募らせる焦燥感と孤独感も映画内で如実に表れていく。

息子が学校で問題を起こしている間に父は失業し、母は新興宗教にハマり、家族がどんどん崩壊していく様は、所詮は「他人」であるメイドの視点から俯瞰的にみることができる。

先行きがわからない、思い通りにいかない人生に、大人も不安を抱えているのだ。
そしてそのしわ寄せは子供と外国人に及んでいく。

子供を祖国に残し、言葉や文化も違う国へ出稼ぎに来なければ家族を養うことができないフィリピン人メイドこそ、本来最も孤独なはずなのに。

そんな、家族の関係と大人としての責任、そして外国人労働者への対応を考えさせられる、とてもいい映画です。


個人的にいま作っている映画脚本の参考にと思い、初めてシンガポール映画を鑑賞。監督・脚本を務めたアンソニー・チェンの幼少期を題材にした作品ということもあり、同じ背景をもって作られたアルフォンソ・キュアロン監督の『ROMA』を彷彿とさせるが、こっちのほうが古いというね。

しかし東南アジアは日本の車や電化製品ばかりでちょっとビックリする。
(2022年だと日本はオワコンになっているので)
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