くりふ

ザ・ヴァンパイア 残酷な牙を持つ少女のくりふのレビュー・感想・評価

4.5
【ボーイ・ミーツ・牙ガール】

そこは絶望に彩られた町だから色がない。しかし若ければ、助手席にまだ、刹那の幸福が乗るうち逃げ出せるのかも…。

奇妙な安息感を孕んだノワール。映画でしかあり得ぬ面白さを産む作り手がまた、現れました。今後の期待値含め、★沢山つけちゃいます。

多分、作風の宣伝には、デヴィッド・リンチやジム・ジャームッシュの名を出すのだろうな…と思ったらアタリ(笑)。確かに、ヴァンパイアの出てくる『ストレンジャー・ザン・パラダイス』と、包装はそう言えなくもないし、そちら系を期待する人には向きだと思います。

しかし何、この邦題。中身見てるの? 副題を『ぼくのエリ』っぽくすりゃいいと思ったのか?原題「A GIRL WALKS HOME ALONE AT NIGHT」という日常感覚に意味があるのに。

本作の舞台はバッド・シティ。もうバッドが不変で、みな麻痺している。その怖さと、それでも生きてしまう逞しさ。そんな当たり前の日常…でも遠くには死体の山(笑)。

結果的に物語は紡がれますが、それよりカット毎に、そこに込められた複合的な感情や要素をどれだけ受け取るか、という映画ですね。

あと強いのが濃厚な音楽。遠くで鳴っているものではなく、音楽に芝居をさせていますね。副音声的でもありました。

監督の出自が面白い。イラン系移民としてイギリスで生まれ育った後、アメリカに移住。本作は、イラン映画を撮りたかったが方法がわからず、カリフォルニアに架空の町をつくり撮り上げたのだそうだ。イラン系らしき人物ばかりが出てくるけれど、体裁はアメリカ映画に映ります。

この画風、私は沈黙の町角に独り、という構図がエドワード・ホッパーの絵を連想しました。その強固さが安定感となり、しかし余白は豊かに空いて、その中で浸りましたねえ。

ヴァンパイア少女を演じたシェイラさんは、『アルゴ』でカナダ大使館のお手伝いさんを演じた人なのですね。うっすら顔、覚えていました。

彼女が牙を出すショット、何だかエロカワ(笑)。

チャドルに身を包み、スケボーに乗る吸血鬼。これがアイコンとしてなかなか。

やっぱり若い女性監督の強みでしょうか、残酷な物語なのに、どこか可愛らしいのですね。アナ・リリ・アミリプール監督。覚えましたよ。こういう人が出て来ないと映画は面白くならない。次回作も進んでいるようなので、静かに期待したいと思います。

<2015.9.23記>
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