ダルマパワー

バケモノの子のダルマパワーのネタバレレビュー・内容・結末

バケモノの子(2015年製作の映画)
2.7

このレビューはネタバレを含みます

前半1時間の展開がとても良かっただけに、九太が青年期を迎えて以降の展開の失速感とストーリーの散らかり、声優さんのミスマッチがかえって目立ってしまい、がっかり感という意味でスコア落ち。

白鯨を差し込んだのは、復讐心に刈られ闇に心を奪われた男の末路を警告する為か、海に漂うように流されて生きる現代人と自らの苦境に抗い歩もうとする九太を対比する為か、サマーウォーズから続く系譜で監督の好みによるものか、単に映像美(見せ場)を作る為のとってつけか。狙いがちょっとわからなかった。

いずれにせよ、あまりに突飛な使い方で無理矢理感は否めず、特に最後の鯨との戦闘シーンは、強引に映像美をつくるための演出だったと感じられてしまった。

九太と熊徹の師弟愛とそれぞれの成長、舞台となる化け物の世界は見事で、時間経過とともにたくましく成長していく様子がいとおしく感じられた。二人の様子を遠目に見守り、夕日に照らされる様は、ベストキットを彷彿とさせるノスタルジックな情緒があった。

ただ、奇妙だったのは、九太が不意に人間世界に戻ってしまった事。確かに本作では、人間世界に戻れない制約は描かれていなかったから、起こり得ることではあったが。

感覚的には、千と千尋で、千尋がある日突然元の世界に戻る方法をあっけなく見つけてしまった、という感じ。その後は、元の世界と湯屋の世界を気ままに移動し、それぞれを満喫するかのような生活。主人公の挫折や苦労、成長、壁を乗り越える様、積み上げてきたものが、これによって台無しになってしまったというのが正直な感想。

また、ストーリーも散らかり、ヒロインが急に入り、新たな登場人物のためのサイドストーリーが入り、本当の親とも再会して微妙な空気になり、大学の話まで出て、急にファンタジーから現実に引き戻されてしまい、内容的にワクワクがなくなり、ポカンとなってしまった。

あそこは本線から外れずに、バケモノの世界のまま最後のクライマックスに向けた最大の試練、でよかったんじゃないかと思うけど、それではシンプルすぎるし色々と回収できてないのかな?

解は見えないけど、やはりでもこれがベストではなかったように思えてしまう。

あとは、個人的な気持ちで、やはり声優さんはとても大事で、広瀬すずさんは、申し訳ないが合っていなかったと思う。楓はまるで口をパクパクさせているだけの無味な2次元の絵に見えてしまった。

染谷将太さんも、本作ではハマってなかった。幼少期が宮崎あおいさんというのはエンドロールで知り驚いたが、あれだけかわいい声の男の子が、あそこまで声質が変わってしまうと、もはや別人。

染谷さんの演技云々ではなく、変わり様への違和感が強すぎた印象。主人公の成長を時間経過と共に見せるのは実写では難しいがアニメならできる。という言葉がオオカミこどもの雨と雪、での監督コメントにあったが、それでいうと本作はそれを過信しすぎた結果だと感じる。

宮崎あおいさんや、染谷さん、黒木華さんなどは前作から参加されていて、恐らく自作以降も出るのかなと思う。素晴らしい演者であり、監督のキャスティングと演出に、もう一歩、自作での前進を期待したい。

※追記
どうも調べていると、宮崎駿監督と細田守監督は、プロの声優さんよりも声優素人の俳優さんを起用するのが好きなよう。素人っぽさ、人間らしさ、がいいらしい。

監督的な立場で、絵に命を吹き込みたいという思いと、

視聴者側から見る『アニメ』というひとつの世界観、そこに俳優という別次元の世界感を混ぜてほしくない、また純粋にうまい人にやってほしい、お金の臭いを出してほしくない、そんな思いとで

監督と視聴者の求めるものに大きなギャップがあるのかなぁと感じた。

正直にいって、前者は監督のエゴだと思う。これだけ昔から声優に俳優を起用して叩かれているのに、それでも貫くのは、サービスを提供するものとしてナンセンスである。

それでもこのスタイルがビジネスとして成り立っているのは、世間に名前が売れている有名どころの俳優を使った方が単純に儲かるからで、製作側のビジネス的な下心と、監督のエゴがマッチし、視聴者側はがっかり感をもっても尚、金を貢ぎ続けてしまう、そんな構図が出来ているからだろうなぁと思った。

いくら酷評を受けても、有名どころを起用した方が、コアファン以外の広い層に受けるという確信が制作側にあるんだろうな。それはもう確信というより事実。

まるで、砂のついたアメ玉のようだ。
ダルマパワー

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