Torichock

バケモノの子のTorichockのレビュー・感想・評価

バケモノの子(2015年製作の映画)
3.1
「バケモノの子/The Boy and The Beast」

ポスト宮崎駿との呼び声も高い細田守監督の最新作。
"時をかける少女"以降、毎回注目作品を出しているイメージですし、アニメにお熱ではなくなった僕でも、毎回公開されるたびに鑑賞意欲を掻き立てるブランドイメージを確立してますよね。
マッドハウスから独立して、スタジオ地図を創立してからの2作目です。

とはいえ...
個人的には"時をかける少女"以降、少しずつ熱量が下がっていく感は否めなく、細田守監督が脚本自体にも関わり始めた、前作"おおかみこどもの雨と雪"は、正直気持ち悪い作品だったと思ってました、実は。好きな方が多いので、あまり卑下しないようにしていましたが、花の母性が異常というか神聖なものに見えて(見せてるように見えて)しまって。

なので、奥寺佐渡子もクレジットにない細田守監督のみの脚本である本作、正直どうかな?と思って鑑賞してきました。
(奥寺佐渡子さんも、最近の作品、どうなの?ってのもあるけど)

予告編から感じていたのは、"千と千尋の神隠し"と"ベストキッド"を足した感じかな?みたいに思っていたんですけど、あながち間違ってなかったかなぁと印象でした。

見た事のある映画のサンプリングを、アニメにして詰め込んだだけと言われても仕方ないかもしれないくらい、全てのシーンがどこか見た事がある感じ。フレッシュなアニメ感が少なかったかなと思いました。"ライフ・オブ・パイ"とか。
後半なんであんなに熊鉄と九太の絆を深まっていたのか?楓との勉強シーンなんか入れるんなら、熊鉄との関係性をもっと深くしろよとかいろいろ言いたい事はあるんですけどね。
でも、一番の原因ははっきりしてます。それは、ファンタジーの話なのに、現実の世界に存在する現実の象徴で、九太を現実世界に引き止める重要な存在として置かれている楓が、一番現実味がない薄っぺらい存在ということです!
薄っぺらいというより、漂白されきった無味無臭のタダの人でした、僕にとって。

どこか"サマーウォーズ"の夏希が、途中でどうでもよくなってくるヒロインのくせに、最後チートキャラ化してるように感じてしまうところと、少し通じる違和感がありました。
特に大団円としては仕方ないけど、楓もバケモノの世界にプラっと来てしまうのはどうなのでしょう。それに、バケモノの世界って、"来ちゃった"って感じで来れる世界なの?

というより、彼女の存在自体がどうかと思うんですよね。今回は前作と逆に父性を描いた作品であるのなら、現実の世界で九太の心を引き止める存在は父親であるべきだと思うし、それだけに絞ってもずっとドラマチック。
九太に別の世界を教える存在としては、ちょっとどうでも良すぎる(目立ち過ぎる)と感じました。それこそ、知識欲を与える存在なら、百秋坊でもよかったと思うんですが...
最後のシークエンスでも、救う人間がかつて離れ離れになった父親の方がいい!成長とかそういうのもいい!
それこそ、感動の名台詞
"心に剣を持て"が、熊鉄から九太の心に宿り、父を救う事で、家族から家族へのバトンタッチになり、人間とバケモノの父親を持つ心優しく逞しい息子になる...みたいな、そっちの方が!とかいろいろ思ってました。
大学受験とかなんか...まぁ、いいんだけど、リアルな話なのかファンタジーなのか、絶妙と思う人がいたらごめんなさい、二兎を追ってどちらもぬるーっとしか掴めなかった感は否めなかったです、ごめんなさい。

もちろんアニメーションのキメの細やかさや、エンターテイメントとして一級の作品である事は前提の話です。前半の渋谷の描きこみとかハンパない実在感でしたし。後半は雑?というか、勢い重視になってましたけど。
また声を担当した俳優さんたちが素晴らしかった。
特筆しなくてはならないのは、宮崎あおいでしょう。めっちゃくちゃうまい...
まぁ、満島ひかりの"ピョン吉"の足元にも及びませんが、そこらへんのアイドル声優を踏み倒してしまうくらい活き活きとしたキャラクターに見えました。ここ最近、作品にも恵まれていないので(失礼過ぎ)、ここはひとつアニメ声優に力を注ぐのも良いかもしれないです。
多々良を当てた大泉洋も流石でしたね。本当に才能に溢れた俳優さんで感心しました。
役所広司は、いつもの感じです。躾の悪い大型犬みたいなもんです(ラジオより流用)

多々良と百秋坊、熊鉄のアンサンブルは観ていて楽しかったですし、散々文句は言いつつも、心に刀を持て〜のところでは、熱いものが目を伝いました。
なので、面白いは面白かったんですが、やはり既視感のあるお話運びと僕と細田守監督の、感動するポイントが違うのが大きな原因かもしれません。
生理的に無理な前作に比べれば...とはいえ、個人的には凡作といった感想でした。

大人がアニメで感動したいなら、今年の夏は"インサイド・ヘッド"がオススメです。
Torichock

Torichock