Yoshishun

怒りのYoshishunのレビュー・感想・評価

怒り(2016年製作の映画)
4.1
大切な人を信じられない自分への怒り、
大切な人にわかってもらえない他人への怒り、
信用と裏切り、哀しみが交錯するサスペンス仕立ての人間ドラマ。

東京、千葉、沖縄の3つのパートで構成され、徐々に事件の真犯人が暴かれていく推理ものとしての面白さに加え、"怒り"という人間の持つ最も複雑な感情とも云うべきものを各視点から淡々と読み解くドラマも備わっている。

それを体現している役者陣の映画史に残るような熱演が凄い。特に宮崎あおい、妻夫木聡、広瀬すずによるクライマックスでの怒りもしくは叫びは圧巻。人間が怒りを顕にするには最早叫ぶしかないことを表現してるかのよう。驚くべき事に暴力シーンが無く、全て言葉と表情のみで表現してる事がまた凄い。沈黙や自分の抑制はある意味日本社会で本音を言い出せない現状を表しているようだった。米兵への差別にも受け取られかねないながらも、あのシーンがそれを深く物語っていた。

ここで少し残念だった点。犯人の動機が曖昧で、(恐らく)主人公の影も薄く、高い演出力や演技力を求めすぎたためか、随所においては惜しい部分も見受けられる。全く関係の無い物語が最後には全て繋がっていくわけではなく、1つの事件に翻弄されてしまった全く関係の無い場所での物語になっているのは、人によっては好みが別れるところ。

中々この手の作品は評価が難しいが、典型的でありながらも、斬新でもある邦画サスペンスということにしておきたい。邦画界屈指のキャスト、スタッフが揃っても酷いものは酷いが、これは全く違う。邦画の利点が上手く機能した作品だった。
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