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ミストレス・アメリカのSPNminacoのレビュー・感想・評価

ミストレス・アメリカ(2015年製作の映画)
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作家として認められたいけど色々期待外れな大学生トレイシー、夢を追って前進あるのみのブルック。たまたま一緒に旅することになった2人がトラブル連続で目的地を目指すという、スクリューボール・コメディの古典定番を、ノア・バームバックは現代NYの義理姉妹(予定)でさりげなくなぞっていく。
といっても、早口で捲し立て脈絡なくあちこち飛ぶ会話による「旅」であり、目的地は家である。ダイアローグはマシンガントークというか、言葉のナイフ投げ合戦。お互いの、そして観てるこちら側の心をえぐるキラーフレーズ満載だった。
颯爽と登場するなり竜巻のように周囲を巻き込んでいくブルック(いつものグレタ・ガーウィグ!)。彼女は「残り時間が少なくなると願望が強くなる」と、常に急き立てられ落ち着きがない。一方、トレイシー(ローラ・カーラ)は「地味な子は人気の子を観察してるからよく知ってる」と堂に入った観察者。空回りしながら進む2人の視点はどちらもよくわかる。
ブルックとトレイシーも自分がどんな人間かわかってる、だからこそ面倒臭い。理想は高いけど現実はちっぽけで、トレイシーが書く小説「アメリカの女王」は惨めな負け犬の肖像だ。でも誰もが幸せを求めてて、それを否定したりしない。「後退することで前進が可能になる」こともあるのだから、2人はそのスタート地点を探してるのだ。
立派な大人でなく、魅力的な大人になるにはどうすればいいんだろう?後の『ヤング・アダルト・ニューヨーク』と同じように、新旧世代の相互批評視点で模索するのはそんな問題。そこには過去を引きずり才能があっても失敗し続ける「輝けない人のヒーロー」がいる。実際そんな人の方が多いのだし、それがある意味安心させてくれるから。確かにグレタ・ガーウィグはアメリカのダメ女子にとっての女王かも。
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