isopie

母と暮せばのisopieのレビュー・感想・評価

母と暮せば(2015年製作の映画)
-
「小津さんや伊丹さん」はもとより、黒木和雄・溝口健二・小林正樹・大林宣彦etc.をごたまぜに、しかし、きわめて生真面目に(みえる)、そして最後は予想もしない地平に連れてゆく。齢84にしてこんな変な映画を作る監督の変わろう、変わりたいという意思は買うが……。

絶えず舞台が移動する『岸辺の旅』に対して『母と暮せば』は屋内に限定される。脚のある幽霊のモチーフは前者以上に大胆かつ執拗で、玄関先のゲートルを巻いた脚に始まり、ニュッと突き出された白い足袋・下駄の鼻緒をすげる場面・雨の日の下駄とボロ靴・片足のない男の松葉杖など徹底した脚づくし。

写真を〈なおす〉(=仕舞う)という九州特有の言いまわしなど、台詞に気を遣っていた。吉永小百合は『長崎ぶらぶら節』をやっているせいか、長崎訛りも自然に。昔の山田洋次作品ならヒロインが倍賞千恵子、上海のおじさんはハナ肇だろうが、加藤健一が無理して演じているのはつらい。

背景美術の第一人者、島倉二千六(ふちむ)が雲を描いている。このひとは雲を描かせたら日本一、いや世界一の天才。円谷英二に重用され、東宝特撮映画の大半を担当。ホリゾントに描かれた夕景の雲やクライマックスの光景は、CGにはけっして出せない味。これだけでも観る価値あり。
isopie

isopie