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皆殺しのバラッド メキシコ麻薬戦争の光と闇のTKSDのレビュー・感想・評価

3.6
メキシコ麻薬戦争の凄惨な実情は、ググれば相当程度知ることができます。

本作の意義は、麻薬戦争がメキシコの文化や人々の心まで侵食するところを克明に記録しているところにあると思います。

すなわち、ギャング礼賛をテーマにした「ナルコ・コリード」という音楽ジャンルが文化として歓迎され、浸透している様が嫌でも伝わってくるのです。

警察官の息子の身を案じる老いた母親でさえ、ナルコ・コリードを聴きながら社交ダンスをしています。
父親が子守唄としてナルコ・コリードを歌い、小さな子が「AK-47(自動小銃の名前)…」と口ずさむ姿はあまりに悲しすぎます。

人々がギャングを恐ろしいものと思っている限り、打つ手はあるのかもしれません。
しかし、人々がギャングに憧れてしまったら、もう打つ手はありません。

希望なき貧しい若者は、ナルコ・コリードの中にギャングの英雄を夢見る。

それは終わりなき流血の惨事をいとわない「皆殺しのバラッド」に他ならないように感じました。
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