まりりんクイン

恋人たちのまりりんクインのレビュー・感想・評価

恋人たち(2015年製作の映画)
4.3
ぐるりのことから9年ぶり?
橋口監督の新作でしたが、そりゃあ時間かかりますわこれ…
ていうか実施三本分じゃないかこんなもん!

時々信じられないくらい臭いセリフや演出がねじ込まれるんですが、それがないときつすぎて観てらんねえですわ。

基本は「恋(を求める孤独な)人たち」のオムニバスなんですが、
一つ一つの話が、「や、これで一本作ればええですやん!」と思わず思ってしまうくらいの面白さ、深さ。
それを引き伸ばして一本にせず、時間をかけにかけ一つの映画として集約させ研ぎ澄ましていった結果、
とんでもないもんになってしまった…

唯一生肉屋と主婦のエピソードだけフィクション度が高めで(一番笑える、この話のおかげで残り二つのエピソードの重さを中和してくれてる感じ。

きっともう一生忘れないだろうなと思えるシーンが数え切れないくらいある。それだけでも凄まじい。

「で?…で?…で?…てなんだよ!」

「あ、ちょっと見ないでください!」「えーいいじゃん」→事後

ションベンカップル

「金魚飼えんじゃん…」

「殺しちゃダメだよ。殺しちゃうとさ、こうやって話せないじゃん。オレはあなたともっと話したいと思うよ」

劇中、主人公の一人である弁護士の四ノ宮が放つセリフ

「これ以上続けると僕が傷ついちゃうんで」

これは、橋口監督本人が実際に弁護士から言われた実体験を元にしているそうですが、
そんな仕打ちをしてきた奴、普通だったらぶっ飛ばしたいじゃないですか、きっと脳内で何回もぶっ殺したくなると思うんです。
しかし監督は、そんな仕打ちをしてきた弁護士を物語の主人公核に据えた上に、「ゲイである」という自身にも重なる設定を入れ、
「辛く当たってくる人にだって、思わずそうしたくなっちゃうような事情があったかもしれない」という描き方をします。
これは即ち、監督が自身の辛い体験を受け止め、このように解釈して、作品に昇華したということ…

正に心を削って作品を作るという言葉がピッタリきます。
いったいどこまで思いつめて、何処まで優しければこんな昇華のさせ方が出来るのか…
もし僕が「自分にやなことしてきたやつをモデルに映画作って良い」って言われたら、問答無用で皆殺しですよ。
爆殺しますよ。

改めて橋口監督の人間としての懐の深さを感じました。

また何より良かったのは、前述のびっくりするような臭いセリフや演出もそうですが、この手のタイプの映画にありがちな、ただただ人生に悲観的で、無闇やたらと悲壮感漂わせる「重たい映画」には絶対に無い、
爽やかさや笑いの要素があること。

そういった映画の3倍(なんせ三本分)は深く絶望や人生の辛さを容赦なく抉っているのに、ラストは余りにも馬鹿馬鹿しいオチでふっと楽にさせる、絶妙なバランス。
こんなにキツいのに見終わったあとは非常にスッキリとした味わいなのが驚きです。

橋口監督、次も何年かかっても良いので、また最高の映画体験をさせてください。
それまで過去作見直します。
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