オトマイム

イマジンのオトマイムのレビュー・感想・評価

イマジン(2012年製作の映画)
4.4
何かを「見る」には必ずしも目は必要ではないのかもしれない。

たとえばよく通る道に新しい店を見つけたとき。あれ、ここは以前何のお店だったかな?と考えても思い出せないことはないでしょうか。私はよくあるんです。人は目を開いていても自分の興味を引くものしか見ていないという典型的な事例。全神経を研ぎすましている視覚障害者のほうがよく見えていることもある。動物的な五感は、どれかひとつが失われると他の感覚がめきめきと立ちのぼるように強まるのだろうか。

足を踏みしめ大地を確認する。舌を鳴らし微かな音に耳をすます。光を、温度を湿度を、風を、匂いを感じとる。そして想像する。目を閉じて、集中して、想像して。もっともっと。何を感じる?何が見える?

ファーストカットから目を奪われる、修道院を改修した診療所の白壁/路面電車が走るリスボンの街/海の香りがするカフェ/坂道。作品全体がひかりをたたえひかりに温められる。まばゆいばかりの陽光と白壁のこのロケ地を選んだ監督は類まれなセンスを持っているのだろう、暗闇の世界と対比され、せつなくて痛いほどだ。そして心を捉えて離さないラストシーン。透きとおるような美しさに心が静かに波打つ。





目の見えない者同士はどのように恋に落ちるのだろう。外見に惹かれるわけではない。視覚が遮断されている分、その他の感覚をフルに駆使して相手を感じるのだろうか。だとすると、とてもイノセントで本能的なものかもしれない。
それを生々しく示してくれた一例は『ブラインド・マッサージ』という映画だった。視覚以外の感覚すべてを使って相手にのめり込む。貪るように愛を交わす。そこには生と性が一体となったエネルギーがほとばしっていた。
けれども本作はそれと対極にあるかのような、一本ずつ線を手繰り寄せるような、もどかしく感じられるほどの心の触れ合いだった。隣あう窓辺での会話、廊下でのすれ違い。お互い興味を持ちながら手探りで近づいていく。


✨ここからちょっとネタバレ✨






ふたりの距離が一気に縮まるのは診療所から外の世界に飛び出したとき。ここで《ドキドキする体験》や《相手に触れること》など、恋に必要な要素を体験する。そしてエヴァが靴をイアンに選んでもらったのは官能的なエピソードだと思った。靴の贈りもの(プレゼントかどうかはわからないけれど)は《相手に拘束されている》という心理が引き出されると思うから。

描かれているのは思春期の少年少女が抱くような淡い恋のように一見、みえるけれどもそうではない。トラムが坂をすべり降りていく屈指の美しいラストで、物語のもっと先を想像する。