くりふ

ソング・オブ・ザ・シー 海のうたのくりふのレビュー・感想・評価

4.0
【半妖少女、うた一夜】

描画の豊かさと、セルキー(海豹を被る美女)という題材に惹かれ、行きました。暫く前に、セルキーを扱ったニール・ジョーダンの大人向け童話『オンディーヌ』をみた余韻もあり。

出だしは冷めてみていたものの、子供たち決死の冒険行が始まる辺りからするりと引き込まれた。オチはおとぎ話に絡め取られた残念感が、少しありましたが。

異類婚姻譚「あざらし女房」が基ですが、監督は「若い世代のために民話を蘇らせたかった」と制作動機を語っており、その通りに、異類婚そのものではなく、その結果生まれた子供たちについて語っているんですね。

まるで異界に続く『スタンド・バイ・ミー』のような展開ともなりますが、個人的にはそこのリアリティが一番面白かった。

アニメであっても、動きとして惹かれるところはさほどなかった。動よりは静の印象。が、人物の心とその連なり、それが物語に育つさまを、丁寧に「アニメという言葉」で語っているんですね。だから退屈さなどまったくない。兄と妹による子供心の確執なんて、シンプルだけれど巧い。

日本のアニメとは少し、違った言語であるところも魅力でした。キャラなんて、描線数で言ったらちびまる子ちゃんレベルでしょう?(笑) それなのに、大人の涙腺緩ませるほどに、何と表情豊かなことか!

アイルランド文化の特徴として「現実の世界と隣り合わせに、不思議な世界が存在する二重構造の世界観がある」そうですが、ダブリンの道路の真ん中に、ヒト型の石碑がごろごろ埋もれていると思ったら実は…のびっくり展開に始まり、異界へのシームレスな地続き感がとても興味深い。ホームレスと思ったら⚫⚫だった、みたいなところとか。

で、主人公らは海豹つながりだから、逆に水が境界線、心の関所になっている。兄と妹で水への思いが逆というのも面白く、これが母への想いの違いともなっていました。

気になったのは、民話の蘇生を狙いとしながら、そこから共存には導かないことです。事件が終わった後の父親の台詞が象徴的ですが、一夜の夢のようなまとめにしており、やっぱりフツウが一番!と結論したいようにも見えてしまう。

蘇生には成功したが、呑み込まれてしまったように感じます。作り手の体力がまだ足りていないのだろうか。

音楽は耳に優しいですね。インスト担当は『コララインとボタンの魔女』の人なんですね。なるほどと納得でした。

当然、まず子供向けとして、良い作品ですね。ディズニーのレリゴーイデオロギーに染まる前に、こういう異文化の作品に触れ見る目も多様化させた方がよい、と感じました。

<2016.8.29記>
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