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みかんの丘のnmoonのレビュー・感想・評価

みかんの丘(2013年製作の映画)
4.5
アブハジアとジョージアの間で紛争が勃発。
アブハジア自治共和国で暮らすエストニア人の老人イヴォの集落にも、紛争の足音が近づいていた。

集落で暮らしていたエストニア人の多くは、日増しに激しくなる紛争を逃れるため、帰国していたが、みかん畑を心配するイヴォとマルゴスはこの国に残っていた。

ある日、集落の前で撃ち合いがあり、負傷した敵対し合う兵士ふたりをイヴォは、自宅で介抱する事になる。

敵対し合うもの同士が一つ屋根の下で暮らすわけで、お互い殺意をむき出しにするのだけれど、老人イヴォはそれを許さず、恩人であるイヴォに敬意を示し兵士達もそれに従い彼の家で争う事をやめると誓う。

両者は、一つ屋根の下で同じ釜の飯を食い暮らすうち、信仰や民族の違いではなくひとりの人としてお互いを尊重し合うようになっていく…
けれど紛争の波が彼らに悲劇をもたらす…


アブハジアという国で、長く暮らすエストニア人のイヴォにとって、民族や信仰の違いを理由に領土争いをするこの紛争はどう映ったのだろう…
自国から離れ他文化の中で自然と向き合った暮らしをする彼は、紛争の渦中から少し離れた存在であり、この作品の中で中立的な存在として描かれているように思う。
長い移民生活から人としての在り方を悟ったイヴォの優しく毅然とした姿が胸を打つ。

ラスト。紛争での傷が癒えた若い兵士は家路に向かう。
敵対する側であった負傷兵ニカが大切にしていたカセットテープから流れる音楽とイヴォから受け取った精神と共に。
エンディングは、これからの未来を若い兵士に託すような希望がある終わり方でよかった。

淡々と静かな展開だけれど、強いメッセージが込められた作品でした。
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