【イマジナリーグランマ】
デイヴィッド・リンチの、“やさしさ”が滲む作品なんて、ほぼ唯一では?と思われる初期短編。しかし狂気デフォのリンチワールドでは、“やさしさ”の方が異物に映ります。
初めて見たのは昔々、今は亡き東高現代美術館で、リンチの初個展が開かれた時。本作と『アルファベット』が上映された。リンチ✕今野雄二✕滝本誠の鼎談つきで。
当時、『アルファベット』の4分間で蠢く、禍々しくもマヌケな異形アニメに眼を奪われ、本作の印象が薄くなってしまった。
が、こうして見直すと確実に、異形の道をより拓き、進んでいたのだとわかります。
地の底から生えてきた両親から、胎生でなく、卵生かナニかのように生まれてきた少年。この過程から予想通り、親から虐待されます。真っ黒な家で。
そこから心だけでも逃れたくて、愛し愛されたい、無意識の種を育てはじめると…。
通常ルートの逆を行くような、少年の家族計画。この人間ばなれがいかにもリンチ。で、やっぱりリンチだから予想通り、“やさしさ”は、すぐ枯れる。
この頃から、まったく変わっていないのだ、と改めて教えられます。が、胎生でないのに胎内にいるようなリンチのなかみを、覗き込むような面白さが、本作にはあります。
主人公の少年は、後にリンチの分身となる、カイル・マクラクランの子供時代に見えてくる。また、最後の不条理な雑草道は『ブルーベルベット』冒頭での、ある場所にそっくり!この道が、あの“耳の中”に通じていたのか!…まさに、原点。
サウンドデザイン担当、アラン・スプレッドとの出会いも本作にて、だったかと。これも映画史的事件、と言っていい出来事ですね。
<2022.8.2記>