半兵衛

黄金の馬車の半兵衛のレビュー・感想・評価

黄金の馬車(1953年製作の映画)
4.7
絵画的な撮影やテンポの良いカット割、子供たちや音楽を巧みに使って権威をからかうルノワール演出に加えて、アンナ・マニャーニの陽性さと逞しい美しさと高い演技力を兼ね備えたヒロイン像やカラッとした明るい登場人物など製作に携わったイタリアのカラーが作品にプラスに作動していつものルノワール作品に比べて何にも考えずに楽しめる雰囲気が濃厚な作品に。

旅芸人一座のヒロインであるアンナをめぐって様々な男たちが取り合おうとする恋模様と一座が周囲でドタバタする様と彼女に恋する総督を心配する貴族たちのドラマが程よくこんがらがって、本来からシリアスになる場面が不思議と微笑ましいシーンに変化して楽しい夢の中にいるような気分になる語り口が素晴らしく極上のワインや料理を嗜んでいるような気分になってくる。

でも一番素晴らしいの冒頭の場面と同じ場所に帰結して映画は所詮夢であることを観客に知らしめるというタブーに近いことをやっているラスト、でもだからこそ作品の素晴らしい名残が一層輝くわけだしアンナ・マニャーニの最後の姿が映画が終わることを望んでいない我々と被って何とも言えない切なさが残っていく。そこには鈴木清順監督の名言「一期は夢よ、ただ狂え」のような感覚も。

ちなみに旅芝居一座の舞台が本編でがっつり演じられていたけれど、小津安二郎監督の『浮草』のように誰かお芝居に長けた役者が演出を担当したのかそれともルノワール監督本人が演出をつけたのかちょっと気になったりする。
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