石

スター・ウォーズ/最後のジェダイの石のネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

 アナキンは暗黒面に落ち、ルークはその父を救った。『ワンダーウーマン』から言葉を借りるなら「大事なのは何を信じるかだ」。ジェダイに"選ばれし者(Chosen One)"と持て囃されたアナキンは、力をつけて自分しか信じることができなかった。ルークは自己の出生を知り、なお父を信じた。出生と境遇の話なのだ。導くのは人であり、フォースではない。

 カイロ・レンはジェダイになれる素養はあった。しかし心の闇の大きさからルークに恐れられ、暗黒面に堕ちた。レイはただの貧困家庭の中で生まれ育ち、親に売られたことが今作で明かされる。アナキンもそもそもは奴隷の出だった。その出生から、ともすればレイは暗黒面に堕ちていた可能性はある。しかし現時点ではそうはなっていない。劇中、カイロ・レンとレイが共闘する場面で自らのライトセーバーを渡すところがある。息の合った入れ替わり劇と、2人が敵を荒々しく切り伏せていく姿は、どのサイドにでも堕ちる可能性と、ともすれば同じサイドにいたであろうことを示唆している。人はどの時点でも分岐点が存在する。ダースベイダーが最期にルークを救ったように、ルークが命を賭してレジスタンスを救ったように、未来は不確定なのだ。ミディクロリアンとはそういうデータ的な素養情報からは未来が推し量れないことを暗示していたのだと思う。

 作中の"ジェダイ"という言葉の意味は大きく変わり、崇高な存在"選ばれし者(Chosen One)"としてのジェダイは滅んだ。希望を持つ者・導く者として復活する。それを忘れていたルークが改めて立ち上がるキッカケとは、新世代の人間の行動と、過去からの学び。未来を紡ごうとする人々に、かつての自分を重ねた。ヨーダが言う「学んだことを伝えればいい」とは、過去の遺産ではなくほんの少しの助言。敷いたレールを進んだ先には歪みがあると、ヨーダは初期から懸念していた。自らの足で自らのことを決めていく必要があるのだ。カイロ・レンはファーストオーダーで秩序を齎すことを選んだ。一度はルークに教えを請うたレイも、やがて自らの道を選ぶ時が来る。シスとジェダイ、帝国と反乱軍、ファーストオーダーとレジスタンス、過去の産物は後から生まれるものに道を譲り、彼らの物語がこれから始まるだろう。善悪の概念を退け、互いの信じるものを衝突させることとなる。ep1〜6は正にその物語でもあった、言わばep7〜8はスターウォーズの語り直しだ。ルークは見事"信じること"を全うし、未来に繋げてくれた。いつか見た光景に希望の日の出を重ねて、ルークはフォースになる。そしてこれから本当の新世代の物語になるのだ。もちろんカイロ・レンやレイだけではなく、カジノの星・カントニカで芽生えた新たな希望もある。フィンとローズが「意味はあった」と語るように、不意な行動が他に大きな意味をもたらす。バタフライエフェクトのように、あらゆる行動が分岐点と化すのだ。いつ何処の時代にもジェダイはうまれる。強い光に深い闇が生まれるように、調和は乱れることは無い。

 ep7、ローグワン、ep8からなるディズニー主体のスターウォーズで描かれる反乱軍(レジスタンス)は完璧な善として描かれていない。少年兵や特攻作戦や武器商人など、組織の闇を隠すことなく物語に盛り込んでいる。今作のポー・ダメロンはレジスタンスの過激派として度々他者に食って掛かる。自己や仲間の犠牲よりも敵を倒すことを優先しているのだ。今回劣勢でひたすら撤退戦を強いられるレジスタンスは、否応無く人員が減少していく。少ない中でも犠牲を払って成果を得ようとするポーと、対して犠牲を最小限にとどめて再起を図ろうとするレイア。レイアは"英雄的な死"を美化せず"蛮勇"と吐き捨てる。また、ローズは「助けることこそ勝利なのだ」と説く。生きることに意味を見出しているのだ。どちらに価値があるかを示す今作の思い切りは、ともすれば過去作の批判につながる。しかしそれで良いのかもしれない。信じるもののために特攻することが悲しい事であり、悲劇を齎す事は私たちが一番身に刻んでいる事だ。正義の糧に死を招く。戦争だからと言ってしまえばそれまでだが、正義を問われる問題だ。

 今作は新しいスターウォーズの入り口を見せてくれた。しかしスターウォーズらしさが失われたかというと、そんなことは無い。どれだけシリアスな場面でも、なにやら空気を読まない原住民や非人間がいつもいるのが印象的だったと思う。ドロイド、ウーキー、グンガン、イウォーク、その他様々なキャラクターがおどけて絶妙なトーンを保っていた。今作はポーグやオクトーの先住民、他ドロイドがその役目を負っていた。しかし残念ながら肝心のストームトルーパーの出番が少なかったように思える。ストームトルーパーのわちゃわちゃしてる感じやポロポロ退場していく姿はそれはそれで和むんだけども。今思うとそういう有象無象のやられ役で一番適していたのはやはりドロイド兵だったかなと思ったり。どれだけ無残な姿になってもロボットだから無問題だし。

 フォース便利すぎ問題に触れておく。遠くのものを動かせるのは相変わらずだが、宇宙空間に飛び出ても大丈夫とか、ライトセーバーのスイッチも遠隔で入れられるとか、遠くの他者同士の意識を第三者がつなぐとか、長距離に自分の姿を投影するとか。ちょっと何でもあり感が出てきてるような気がする。あと霊体のヨーダが雷落としたけれども、そういう干渉の仕方できるのは思ってもみなかった。

 あと長い。2時間30分は流石に尻が痛くなる。

 個人的に好きな場面は、カイロ・レンとレイが共闘する場面。今まで映画作品では赤と青のライトセーバーが共通の敵を倒していくシチュエーションは無かったはずなので、とても興奮した。敵味方が共闘するシチュエーションはやはり良い。
 次は、惑星クレイトで劣勢の中颯爽と現れるミレニアム・ファルコン。本当に痺れる。そこからの音楽の使い方も最高。盛り上げるよねぇ。好き。
 あと、ルークとレイアが満を持して対面するシーン。世捨て人の小汚い爺さん状態から少し若々しい顔つきや声になってるような気がする。ウインクしたり。
 最後、カント・バイトの飼育係の少年が空を見上げるラストシーン。希望が生まれた瞬間。この少年がレジスタンスの指輪をはめているところは、少し残酷でもあったり。しかしこのシーンは過去作と重なるところが多々あり、このシーンで終わるというセンスに痛く感動した。

 私は今作が好きだ。単純に新しいスターウォーズを観ることができたからだ。そして新たなキャラクターたちに愛着を持つことができた。ep7ではこの2点がやはり疎かになっていたように思える。ep7の時点で今作の半分の内容まで語れたような気もする。今作は単体で十分楽しめるし、次回作が十二分楽しみになる良い中間点だった。
 今作でもって過去の遺恨は濯がれただろう。根底にあった出生と境遇に立ち返り、新たなキャラクターで語り始めた。ep9は新世代の物語となる。今作で新たな側面の兆候を見せたように、次回作はまだ見ぬ境地に連れて行って欲しい。新しいスターウォーズが観れることを楽しみにしている。
石