垂直落下式サミング

クーデターの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

クーデター(2015年製作の映画)
4.2
東南アジア某国に海外赴任してきたアメリカ人家族が現地で暴動・革命に巻き込まれ暴徒から逃げるという壮絶なバイオレンス映画。ドキュメンタリー作品の『アクト・オブ・キリング』で語られた惨劇をモデルにして当事者の目線を映像化したような映画で、時節柄不謹慎と言えば不謹慎な内容だ。
原題は『NO ESCAPE』(逃げられない)
画面にあんだけでかくタイトルが出る映画なんだから、横文字の邦題は要らないんじゃないか?冒頭でポスターに書かれているタイトルと違う文字がドンと映し出させるとヒヤッとするので、こういう場合は邦題を変にかえないでほしい。
人物の描き込みが丁寧で、最初の夫婦間の信頼関係が稀薄な感じがリアル。旦那が仕事のことをなんでも一人で勝手に決めちゃって、奥さんがストレスを溜め込んでいる家庭って多いと思うんですよ。子役の使い方も非常に上手い。セリフや仕草の絶妙な無邪気さや幼さが実在感をもって撮しとられているため本当に可愛いらしい。だからこそ、二人の娘が何度も繰り返される惨劇を目の当たりにするのは本当に胸が痛むし、こんなの誰も助からないんじゃないかと事態の深刻さが際立ち緊迫感が持続する。
お父さんが新聞を買いに行くシーンも上いいんですよね。よく使われる手法だけど『ショーン・オブ・ザ・デッド』のゾンビ発生シーンみたいに、新聞を買おうとホテルから市場に出かけるお父さんを前日とまったく同じカメラアングルで追っていて、平穏な秩序が破壊され殺伐が展開する瞬間を映画的に上手く表現してみせている。
暴徒となった男たちが外国人や富裕層の人間たちを鉈や斧で次々と血祭りに上げていくのだが、明らかな害意を持って迫ってくる話の通じない群衆の恐ろしいこと!『ブラックホーク・ダウン』とか『ザ・レイド』みたいに周りが全員敵という状況になってしまい、混沌のなかを兵士でも特殊部隊でもない一般人の家族が必死に逃げる様子は、自分に置き換えやすく容易に感情移入できた。革命というものの加害者性を浮き彫りにするかのような内容であると同時に、結局は大国の倫理を欠いた利益追求がこの事態を招いたのだとアンチグローバリゼーションな社会派な問いも提示される。
実に見事なパニックムービーでした。