あかねちん

黄金のアデーレ 名画の帰還のあかねちんのレビュー・感想・評価

5.0
これはただの名画を巡る裁判モノではなくバディムービーであり、家族の絆とそれぞれの信念を掛けた実直なヒューマンドラマだった!全体的に派手さもないし音楽も映像も特別秀でているわけでもない…でもただただ本当に心が震え、時々笑わされながらも涙が後半ずっと止まらなかった…もう私はこの作品大大大好き!

オーストリアのモナリザとも呼ばれるクリムトの描いた名画"黄金のアデーレ"を巡る裁判と名画の数奇な運命を描いた作品。

観る前はまずクリムトすら知らなかったし"黄金のアデーレ"の存在もこの作品で知ったくらい。ナチスに奪われオーストリアのものとなった家族との思い出の名画を奪い返す裁判映画なのかなぁと思っていたが全然違った!少し主人公のこと独占欲の強いばあさんなのかな…なんて観る前は勝手に思っていたのでもう頭を深く下げて反省したい…

要素としてきっちり裁判シーンはあるしそこでの展開はハラハラし重要なものではあるが全体を通してこれはヘレン・ミレン演じるおばあちゃんのマリアと若手弁護士でライアン・レイノルズ演じるランディとのバディムービーだなと感じた。2人の家族との思い出を祖国から離れてしまったからこそ取り戻したいと思うマリアと今迄1つの偉業を成してきた先祖のように自分も一つのことを純粋に成し遂げたいと奔走する2人の信念と行動にはその一生懸命さに心動かされる。また元々2人ともオーストリア人でウィーンの血筋を引く人間という共通点があったからこそそしてそれぞれ紆余曲折あったが強い信念があったからこそ最高のタッグになったのかな…と思った。

実話を元にした映画だがキャラクターがしっかりしていてそこもよかった!頑固で毒舌だけど貴賓と優しさと機知に溢れ嫌味を感じさせないマリアおばあちゃん。少し頼りなさげに見えるが家族を大事にしながらも信念を持ち続け奔走するランディ。2人とも観ている側が愛せる要素がありとても人間的で是非とも本人たちに会いに行きたくなるほど魅力的な人物だった。ヘレン演じるマリアは本人の親戚や知人が認めるほどの再現率の高さなのだそう。そして映画にちょこちょこ出てくるマリアの仕草を観て思ったのだがお節介焼いたり飴持ってたりとおばちゃん精神は世界共通なんだなとw

映画のポイントとなる裁判や各国の政府の描き方に関してはなんともわかりやすいかった。お堅く保守的なオーストリア。柔軟に受け止めでウィットに満ちたアメリカ。観ていく上でも長々と裁判シーンを描かれるよりかこれくらいの方が丁度よかった。

またラストのシーン…。これはもうなんとも言い表すこと難しい…とにかく感動されっぱなしだった。思い出すだけでジーンとくる…。マリアの家族に対する愛情と思い入れの強さと信念がひしひしと伝わる。生きる場所の言葉を信念を持つこと。数奇な人生を生きてきたからこそより重みの感じる言葉だった。

観る前までは正直ここまで期待はしていなかったからこそ思わぬ良さがまた良かったのかも。クリムトについて、名画黄金のアデーレについて、マリアについてさらに知りたくなった。本物の黄金のアデーレをいつか絶対観に行きたい!

東京国際映画祭の舞台挨拶付きで鑑賞したがヘレン・ミレンがチャーミングなおばあちゃんであんな年の取り方いいな…
あかねちん

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