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ラスト・フェイスのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

ラスト・フェイス(2016年製作の映画)
1.0
【内戦があったから愛し合えた??】
第74回カンヌ国際映画祭にショーン・ペンの新作『Flag Day』が出品されている。本作は詐欺師の娘が父の過去を受け入れようとする話だ。さて、ショーン・ペンといえば『初体験/リッジモント・ハイ』で授業中にピザを注文する不良役から、『アイ・アム・サム』での知的障がい者役など幅広い演技を魅せている名優である。そして『イントゥ・ザ・ワイルド』では敷かれたレールから逃れようとする若者の繊細な心情を捉え、映画監督としての腕も評価されている。しかし、2016年カンヌ国際映画祭コンペティションに出品された『ラスト・フェイス』はあまりの酷さにブーイングが出たとのこと。今回、折角の機会なので観てみました。

ヨアヒム・ラフォスの『The White Knights』もそうだが、国際協力をテーマにした映画は社会派で重い内容が多いため、評価しそうになるのだが、よくよくみると全然現地民に寄り添えてなく、先進国が気分良くなるための映画になっていることが多い。敢えてその自己中心的な心情にフォーカスを当てた『アイダよ、何処へ?』のような良作も存在するが、警戒しなくてはならない題材である。

さて、この『ラスト・フェイス』はどうか?

どうかしていました。

『ツリー・オブ・ライフ』でテレンス・マリックのスピリチュアルさに感銘受けたのか、ショーン・ペンは美しい陽光とセンチメンタルな音楽をバックに医者ミゲル(ハビエル・バルデム)と国際支援組織の女レン(シャーリーズ・セロン)との情事が描かれている。

アフリカで窮地に遭っている市民は、その他大勢として押し込められており、助けを求めてヘリコプターにしがみつく人々を突き落とすシーンの直後に、ユニセフか何かのコマーシャルさながら少年が手を振る描写を挿入する。この時点で、先進国が貧困を救ってやっているという傲慢さが見え隠れしている。

そして、映画が進めば進むほど、内戦そっちのけでミゲルとレンがラブラブ情事を重ねていくのだ。センチメンタルな音楽全開で描いていたのに、今の気分はレッチリだぜとレッド・ホット・チリ・ペッパーズの音楽を流しながら車を走らせ、いちゃついたりするのだ。そして、武装勢力に捕まると、レンは「あんたら通報するよ」と全くその状況で意味ないどころか火に油を注ぐ煽り方をしてしまう。

132分中、疑問符がなかった瞬間はないのではと思う程、ちょっと何言っているのか分からない展開が所狭しと陳列されており、しかもショーン・ペンは無駄にテクニックだけあるので、視野の狭さを強調するように画面をボカしてみたり、素早いパンや、ここぞというタイミングでグロテスクなショットを挟んできたりする。それだけに悪質さが極まってしまう。

きわめつけは、本作の締めに「内戦があったから愛し合えた」とミゲルが語り始めるのです。流石にレンが「嘘でしょ」と否定しようとするのだが、それを押しのけてこの映画において内戦は恋のキューピットだと結論づけているのです。

なんだか、人生経験のためだけに海外ボランティアして、現地で学校建てて満足しているだけの大学生のようにしか見えない映画で、全く擁護するポイントが見つかりませんでした。果たして、新作『Flag Day』で返り咲くことができるのでしょうか?
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